騎士団長への狂愛で国が傾く…!? 謎の爆モテを娘と自称・大魔法使いが暴く傾国系ファンタジーマンガ【書評】

マンガ

公開日:2025/7/18

傾国の騎士団長
傾国の騎士団長福良木漁/白泉社

 「第1回花とゆめAiストーリーまんが賞」でグランプリ&ビジュアル賞をW受賞。ペン入れ前のネーム状態ながらも、その圧倒的な画力とストーリー性で審査員を驚かせた注目作『傾国の騎士団長』(福良木漁/白泉社)が、ついに待望の単行本化。発売に先駆け、本作の読みどころを紹介したい。

 ダーナヴォーダン・イッカーは、戦好きな若者が集う「石竜騎士団」をまとめあげる騎士団長。気の弱いところはあるが、真面目で誠実な騎士だ。

 そんな彼を、団員たちは皆、敬愛……どころか、完全に“騎士団長狂い”と化していた。

advertisement

 その狂信的な様子に、「イカれてる」と呆れているのが、ダーナヴォーダンの一人娘であり、本作の主人公・メイニルだ。

 父を愛する彼女は、騎士団員たちの熱狂っぷりを見て、どうにも違和感を覚えていた。確かに就任時から父は慕われていたが、ここまで極端ではなかったはず……。

 何かがおかしい。そう感じたメイニルは、独自に調査を始める。そんな彼女の前に現れたのは、自称・大魔法使いのノックリール。

 なんと、彼が作った大掛かりな魅了魔法「傾国魔法」が何者かに盗まれ、その影響でダーナヴォーダンに異変が起きているというのだ。父を救うため、メイニルは盗まれた魔法の行方を追うこととなる。

 犯人探しを始めたメイニルとノックリール。盗まれたのは、魔法をすぐ使えるように書き留めた「綴」だ。持ち歩けるうえ、使う時には身につけて軽く念じるだけで発動できる便利なアイテム。綴にはノックリールの魔力が込められており、書かれた条件で魔法が使える仕組みだ。

 その綴を使って、誰かが騎士団長に魔法をかけた。傾国魔法は使用者自身には効かないため、騎士団長に狂っていない人物が容疑者となる。綴には使用者制限も鍵言葉もかけておらず、誰かが使い続ける限り、ノックリールの魔力は水のごとく消費されてしまう。

 その事情を知ったメイニルは、「父が治める騎士団領で困っている人がいたら必ず助ける。それが、うちの騎士道だから」と協力に前向きだ。愛らしい見た目に反し、剣の腕も立つ彼女。領主の娘として、“着飾ったお嬢様”で生きる道もあったはず。しかしメイニルは、「誰かが描いたとおりの『わたし』じゃ、わたしである甲斐がない」と剣を取る。

 そんな娘に対し父のダーナヴォーダンは、「あぶないことはしないでほしいな」と親心をのぞかせる。父の願いすら振り切って、自分の信じる道を歩む芯の強さに、読者はきっと魅力を感じるはずだ。

 調査に疲れたメイニルが猫姿のノックリールを「猫吸い」する、ほっこりとしたシーンも。一見お調子者だが、ときにはメイニルを諭し、彼女のピンチには颯爽と駆けつけるノックリール。孤高を気取っていたはずの彼は、彼女と過ごすうちに、心の内に初めて熱を覚えるようになる。

 見逃せないのが、団長補佐・イェトリの存在だ。寡黙で冷静な彼だが、その仮面の下には思いもよらぬ素顔が隠されていた。

 彼とノックリールの接触により、物語は思わぬ方向へと動き出す。そして1巻のラストでは、何やら不穏な空気が漂いはじめ……。

『傾国の騎士団長』第1巻の紙版は7月18日(金)発売予定。電子版は一部サイトで先行配信中だ。また、7月20日までは試し読み増量キャンペーンも行われている。メイニルとノックリールの関係が少しずつ縮まっていくところも見どころのひとつ。まずは試し読みから、その世界に足を踏み入れてみては。

文=倉本菜生

あわせて読みたい