山口馬木也さんが選んだ一冊は?「役について考え込みそうになった時、この絵本を読むと心がゆるむんです」

あの人と本の話 and more

公開日:2025/7/19

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年8月号からの転載です。

 京都精華大学の美術学部洋画専門分野を卒業し、絵本作家を目指していた山口さん。自作の絵本を描いたこともあるとか。

「コウモリとモグラが、真っ暗な自分たちの家を自慢し合う絵本とかね。ただ、職人気質なのか描いたらそれで満足。絵画もそうですが、今では手元に残っていないんです」

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 夢を与えてくれたのは、幼少期に親から贈られたこの絵本。

「この本と『さむがりやのサンタ』の2冊が大好きで、子どもにもよく読み聞かせました。線はシンプルながら園児の持つ柔らかさが伝わってきて。真っ黒な中に“よる”とだけ書いてあるページもあって、枠にとらわれない自由さを感じます。こういう発想を持つ人に憧れますね」

 今でも大事に取ってあり、折に触れて読み返しているそう。

「役を演じる時、自分の物差しでその人物を解釈したり、考えすぎたりすると、悲惨な結果を生むんです。映画や舞台は人と一緒に作るものですから、あえて役作りはしないようにしていて。考え込みそうになった時、この絵本を読むと『おならで空を飛ぶ? どういうことだよ』なんて心がゆるむんです。考えすぎを抑制する効果があるのかもしれない」

 舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』でも、「解釈は加えず、リアリティをもってただそこに存在したい」と話す。戦後まもなく米兵に嫁いだ「戦争花嫁」のドキュメンタリーを下敷きにした本作で、山口さんはヒロイン・桂子の父親役を演じる。

「こうした出来事が実際にあり、桂子さんは今もご存命。嫁いだ時は若さゆえの勢いで障害を乗り越えられたかもしれませんが、差別を受けながらも何十年も夫に寄り添い、今も明るく笑っています。その姿を見ると、なにか使命を帯びているように感じられて。戦争について考えるきっかけを与える、そんな使命を持つ方なのかもしれない、と」

 戦後80年を迎える今こそ、国境を超えたふたりの愛を伝えることに意義がある、と山口さん。

「家族を通して戦争を考えることは、僕にとっても大きなテーマです。僕が日々心がけているのは、その日会った人を嫌な気持ちにさせないこと。家族や友達、コンビニやタクシーなどで顔を合わせた方をリスペクトする。そういう小さなことから思いやりが広がっていくと思うんです。この舞台も、家族や戦争を考える小さなきっかけになればうれしいです」

取材・文=野本由起、写真=booro

やまぐち・まきや●1973年、岡山県生まれ。98年、映画『戦場に咲く花』で俳優デビューし、2000年に蜷川幸雄演出『三人姉妹』で初舞台を踏む。03年よりドラマ『剣客商売』に藤田まことの息子役として出演。24年、長編映画初主演となる『侍タイムスリッパー』が大ヒットし、数多くの主演男優賞を受賞。

『おおきな おおきな おいも』
(赤羽末吉:作・絵、市村久子:原案/福音館書店)1320円(税込)
楽しみにしていたいもほり遠足が、雨で延期に。残念がる子どもたちは大きな紙においもを描き始めて……。紙をつなげてつなげて、どんどん大きくなるおいもの絵。こんなおいも、どうやって運んで、どうやって食べる? 大きなおいもをめぐる、子どもたちの空想が詰まった絵童話。

舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

原案:「War Bride 91歳の戦争花嫁」(TBSテレビ) 
脚本:古川 健 
演出:日澤雄介 
出演:奈緒、ウエンツ瑛士、山口馬木也ほか 
東京公演:8月5日~27日(よみうり大手町ホール)、兵庫、福岡公演あり 
●かつて「戦争花嫁」と呼ばれた桂子は、現在94歳。彼女は1951年、20歳の時に米軍兵士フランクと結婚し、海を渡った。彼女はなぜ敵国の軍人と結婚し、人種差別をどう乗り越えたのか。その人生をたどる、真実の愛の物語。

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