【堀江瞬&小野大輔】プレッシャーを感じたアフレコ。シュールな掛け合いを、ひたすらドライに!?【TVアニメ『カラオケ行こ!』インタビュー】

マンガ

公開日:2025/7/24

「歌がうまなるコツ教えてくれへん?」

 ある日突然、ヤクザの狂児から声をかけられた合唱部部長の中学生、聡実。半ば強制的にカラオケ練習に協力するうちに、2人の間に奇妙な友情が芽生え始める……。

和山やまの人気マンガ『カラオケ行こ!』が、数々のマンガ賞で作者の名を世に知らしめた短編集『夢中さ、きみに。』と共に2025年7月にテレビアニメ化。「推しの子」が評判のスタジオ、動画工房が制作を手がけ、中谷亜沙美が監督を務める。

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 タイトルどおり「カラオケ」が物語の要となる本作で、カラオケの場面がどのようにアニメ化されるのかは気になるところ。聡実役の堀江瞬さんと狂児役の小野大輔さん、注目のメインキャスト2人にそれぞれのキャラクターの印象やアフレコでの裏話を伺った。

真顔でシュールなことをやる雰囲気がすごく面白い

――お二人はもともと、「カラオケ行こ!」の原作マンガを読まれていましたか?

小野:和山やま先生の『女の園の星』は読んでいたのですが、オーディションの話をいただいて『カラオケ行こ!』をまだ読んでいなかったことに気づいて手に取りました。和山先生の作品は、とにかく唯一無二の絵柄なんですよね。クールでシニカルな印象だけれど、読むとどこか熱い熱量が潜んでいるのを感じるのがシンプルに好きです。

堀江:僕は友人から勧められて読み始めたら、安易にカテゴライズできないような面白い関係性が描かれていて、人間ドラマとして楽しめる作品だと感じました。真顔でシュールなことをやる雰囲気がすごく面白くて、この空気感を声の演技でどう表現すればいいのか、役が決まってからずっと考えていました。

――演じられたキャラクターの狂児と聡実には、それぞれどんな印象を持たれましたか?

小野:極道の人って、他の生き方ができずに、もっと切羽詰まって見えたりすると思うんです。でも狂児はどこか飄々として人生を楽しんでいるように感じる。それが男としてかっこいいんですよね。自分とは真逆の人間なので、どう演じるか迷いましたが、僕もB'zが好きでキーが合わないのに無理やりカラオケで歌っていたのを思い出して。歌が下手なのに「紅」を歌い続ける姿から、狂児を自分に寄せていきました。

――堀江さんは聡実をどんなキャラクターだととらえていますか?

堀江:等身大のティーンの雰囲気がある、すごく可愛らしい男の子だと思います。それとは裏腹にちゃんと嫉妬深さもあって、心の中に激情が渦巻いているような人間らしいところが、聡実を演じる上での指標になりました。

小野:現場でのお芝居を見ていると、堀江君にもそういう熱い部分があると思った。役者としての爆発力にもすごく驚いたよ。

堀江:……嬉しい! 学生時代に陸上部で速い後輩に追い抜かれた悔しさと向き合えず、「練習不足だったから」みたいな言い訳を見つけては自分の心を保とうとしていたんです。そういう自分の中の青春の歪みみたいな部分を聡実君とリンクさせて演じていました。

アフレコではプレッシャーを感じることも

――掛け合いの場面など、狂児と聡実の独特の間合いが楽しい作品ですが、現場ではどのように2人の呼吸を合わせていったのでしょうか。

堀江:アフレコの前に、和山先生から聡実の演技はもう少しこうしてほしい、という感じのメッセージをいただいたんです。僕はそれをすごくシリアスにとらえてしまって、オーディションの演技では駄目だったんだ……というプレッシャーを感じていましたが、小野さんも同じようなメッセージをいただいたと聞いて心の荷が下りました。

小野:「狂児にぴったりですが、もう少し声が低いと嬉しいです」という感想をいただいたんです。オーディションでもかなり低めにしていたので、僕もある種の不安はありました。でも先生は「もっと理想に近づける」という確信を持ってくださっていたのかもと今は思っています。

――2人のやりとりの中でのセリフ運びや温度感も、原作の面白いところですよね。

小野:かなり淡々とやりましたが、音響監督の(木村)絵理子さんからもっと抑揚がない方がいいとディレクションいただいて。関西弁だとどうしても体温が乗ってしまうので、それを引き算するのが一番難しかったです。感情を出さずドライにしてくださいと言われて、ウェットな方が得意な自分は、アフレコが始まってからどんどんプレッシャーが増していきました。

堀江:僕は小野さんとの掛け合いの中でどんどん聡実になれていく感覚があったので、逆に安心していました。1ワード喋るたびに、方言指導の野津山(幸宏)君に修正される大変さはあったんですけれど(笑)、全話を通してティーンらしい雰囲気になれていたらいいな、と。

――聡実はすごく落ち着いているように見えて、実は思春期の男子らしく内面が揺らいでいたりしますね。

堀江:聡実の内面の部分や、原作のシュールな場面をどう演じればいいのか不安だったんですけれど、1話Aパートの狂児との会話で掴むことができました。2人の掛け合いに関しては困ることがなくて、現場でディレクションをもらった記憶もほぼないんです。

小野:絵理子さんが「あとは大阪弁がよかったらOK」と言った後に野津山君が「イントネーションが違うのでもう一回お願いしまーす」みたいなのはあったけど(笑)。

――音響監督の木村さんではなく、野津山さんがジャッジするのが面白いですね。

小野:野津山君は「カラオケ行こ!」の舞台の大阪出身で、彼の関西弁がそのまま作品の関西弁になっています。方言指導はいっさい手加減無しでした。感情表現よりも前に、余分なものをそぎ落として関西弁の音にするという作業があったんです。その先で表現する要素は2人の関係性だけだった。おかげでよけいなことを考えずに演じられたと思います。

堀江:それは僕も同感です。方言で演じるときって、どうしても音に意識がいって心が乗っていない、みたいになりがちなんですけれど、この現場は小野さんとの掛け合いの中で、音ハメゲームに陥ることなく聡実として演じることができました。

小野:アフレコの現場にいる声優さんたちがみんな大阪の人で、「確かにそやな、こうは言わんよな」みたいな話で盛り上がっていましたね。キャストがみんなで雰囲気を作ってくださったので、『カラオケ行こ!』の世界にどっぷりつかれた感じがありました。

堀江:組の人たちがカラオケで一堂に会するシーンのアフレコは、もう本当に間違えてどこかの事務所に潜り込んじゃったのかなくらいの迫力でしたよね(笑)。

中学生と極道、ありえない組み合わせでたまに噛み合う面白さ

――聡実と狂児の関係性について、お二人はどのようにとらえていますか?

小野:お互いことさら感情をさらけ出す必要がない関係性だと思います。出会ってカラオケに行っただけなのに、長年連れ添ったバディみたいな空気が生まれているのは不思議だけど、素敵な関係だと思う。

堀江:本編に狂児のモノローグがなくて、聡実の目線で狂児をとらえているからこそ、すべてがわかりすぎないんですよね。そのピースを見た人の中で繋げていくことができるのが、この物語の楽しさなんだろうなって。

――自ら語らないことで、逆にその内面に惹きつけられる部分はありますよね。

小野:何を考えているかわからない、いわゆる「行間」が和山先生の作品の魅力だと感じています。その温度感を僕は最初、シニカルとかクールという言葉でとらえていたんですけれど、堀江君と話してみてシュールという表現がぴったりだなと思いました。

堀江:聡実の狂児に対する思いが、思春期ならではの揺れ動いている感じも魅力ですよね。中学生と極道というありえない組み合わせで、すべてがミスマッチなのに、たまに噛み合う面白さ。ともすれば聡実は狂児をちょっと見下していたりするのに、実は狂児の手のひらの上で転がされているみたいな絶妙な感じも見ていてこそばゆくて、愛くるしいです。

小野:僕の歳になると、思春期の体の変化みたいな自分ではどうにもならないことに立ち向かう若者の姿が、微笑ましく見えて助けたくなるんですよね。狂児の気持ちがよくわかります。最初は自分のためだったのに、すぐ聡実くんのために色々考えるようになっている。合唱部でも周りの部員が彼のことを気にかけているので、聡実くんには人を惹きつける「人たらし」的な魅力があるんでしょうね。

――聡実を巻き込んでいく狂児ではなく、聡実の方が人たらしですか?

小野:続編の『ファミレス行こ。』を読むと、狂児は女性に対してもどこかドライで不器用に見える。聡実くんから見て人たらしに感じるのは、人生経験の差だと思います。どこか浮世離れしていて放っておけない部分があるので、計算や打算なく生きているところが、人を惹きつけるのかなと。

堀江:最初は関わりたくないと思っていた聡実と、これだけの関係を築けるのは、やっぱり1人の男として心の拠り所にさせてくれそうな懐の広さがあって、それが思春期に揺れる聡実にフィットしたんじゃないかって。人によってはグルーミングに見えるかもしれない関係だし、もし現実なら、中学生の男の子が20も年上の極道と親交があるだけで心配ですけれど、それでもいいやと思えてしまう危うい魅力を持っているのが、狂児なんですよね。

――なるほど。だからこそウェットに表現しない方がよかったのかもしれないですね。

小野:初めて2人でカラオケに行くシーンで、最初はニュアンスを乗せた演技をしていたんですけれど、狂児は必死な顔で泣きつくのではなく、真顔で「よろぴく」なんですよね。自己紹介の後、聡実に力を貸してほしいと頼むときの力の抜け具合は、得体がしれないけれど放っておけない感じもある。

堀江:聡実からすると見えない部分だけれど、狂児も狂児でどこか少年っぽいというか、不完全な部分があるというのがいいところですよね。

小野:こうやって2人で話してみると、改めて気づかされる部分が多いですね。これを踏まえてもう一度アフレコしたいくらいだけど、全部わかっていてやるとウェットになっちゃうかも(笑)。

取材・文=平岩真輔、写真=干川修

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