【堀江瞬&小野大輔】「きもい裏声」を再現しようと試行錯誤!? 下手に歌う難しさ【TVアニメ『カラオケ行こ!』インタビュー】
公開日:2025/8/15

和山やまの人気マンガ『カラオケ行こ!』が、数々のマンガ賞で作者の名を世に知らしめた短編集『夢中さ、きみに。』と共に2025年7月にテレビアニメ化。2024年に公開された実写版映画でも、狂児役の綾野剛さんが熱唱する「紅」が注目のマトだった本作。インタビュー後編では、アニメで狂児を演じる小野大輔さんと、聡実役の堀江瞬さんが挑んだ異色のカラオケ収録と、作品の世界観を支える「方言」との奮闘ぶりを伺った。
狂児は絶対にやりたいと思っていた
――小野さんがカラオケに行くときの十八番はどんな曲ですか?
小野:カラオケに行っていた頃は、B’zの「ultra soul」や「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」が好きで、悔しいけど4つくらいキーを落として歌っていましたね。あと「いつかのメリークリスマス」は原曲がすでに低めなので、B’zが好きだけどキーが合わないという人におすすめです(笑)。
――堀江さんは公式コメントで昭和歌謡が十八番だと言われていましたが、もし狂児と同じ境遇におかれたらこれを歌う!という勝負曲はありますか?
堀江:勝負するならカラオケで必ず歌う、ちあきなおみさんの曲ですね。昭和歌謡の女性歌手って、どこか報われない人のことを歌っていることが多くて、自分の青春時代と照らし合わせたときに共感できる部分があるんです。だから聖子ちゃん派か明菜ちゃん派か? みたいな議論でも、圧倒的に明菜ちゃん派なんですよ。
――小野さんの勝負曲は、やはりB’zでしょうか。
小野:刺青を入れられるかどうかの瀬戸際なら、「ルビーの指環」とか「勝手にしやがれ」みたいな、とにかくキーが低めで安定している曲を選びますよ。作中で聡実が狂児に渡した選曲メモに「ルビーの指環」が書いてあるのを見たときに、「え? なんで知ってるの!?」と驚きましたね。寺尾聰は父親がよく歌っていて、その影響で好きなんです。
――まさに狂児と小野さんの歌声がシンクロしていたんですね。オーディションでは歌の審査もあったのでしょうか。
小野:オーディションテープで「紅」を歌いました。狂児は絶対にやりたいと思っていたので、歌も本気で録れるスタジオで収録させてもらったんです。何度も歌いましたが、スタッフさんが「紅だー!」のシャウトに笑っていたので手応えを感じました(笑)。

下手に歌うというのは思った以上に難しい
――お二人ともこれまでに歌を歌うキャラクターは演じられていますが、作中のカラオケとして歌うことは珍しいですよね。
小野:キャラクターそのものを表現する、キャラクターソングとは明確に違いますよね。この作品のキャラクターたちは皆、生きるために歌っています。カラオケで歌わないと人生に関わる。必要に迫られて歌っているんです。通常は歌に淀みや揺らぎがあるとキャラがぶれてしまうこともあるんですが、「カラオケ行こ!」に関してはむしろその「ぶれ」こそが生きるための表現として大切だと感じました。いつもとは全然違うアプローチで、ただ狂児として必死に歌うだけでしたね。
――原作の読者はカラオケで「紅」がどう歌われるか楽しみにしていると思います。聡実から「すごく裏声がきもい」と言われた狂児として意識したことはありますか?
小野:アニメ化するときに最初にぶち当たる壁は、原作ではっきりと言葉で描写されている事象をどう表現するか。「きもい裏声」を再現しようとして全部裏声で歌ってみたら、気持ち悪い以前に組長のカラオケに挑むというリアリティが無くなってしまったんです。何テイクも録りなおして、どのくらい裏声を入れればいいのか、上手く歌えるところとそうでない部分のバランスを探りました。下手に歌うというのは本当に、思った以上に難しいです。
――「紅だー!」のシャウトの部分はどうでしたか?
小野:勢いでやっているようですが、実はすごくこだわった部分です。僕もそうですけど、狂児はたぶんあれがやりたくて「紅」を歌っていると思うんです。シャウトしたら後の歌はもうオマケみたいな気分で(笑)。そもそも歌詞にはなくToshIさんがライブで叫んだ言葉です。すごく綺麗な歌い出しのメロディの直後に「紅だー!」って言う、そのカタルシスを表現したいと思ってレコーディングに挑みました。楽しんでいただければ幸いです。
本当に声がガラガラになるまで何テイクもレコーディング

――堀江さんも、聡実がカラオケで「紅」を歌うシーンがありますよね。
堀江:狂児と同じ曲を歌うのは、ある種のアンサーソングみたいで重くもあるんですけれど、面白いですよね。歌の部分はセリフとは別録りだったので、「紅だー!」のシャウトは何度も聴いているんですけれど、実はまだ小野さんがどれくらい気持ち悪く「紅」を歌われたのか知らないんですよね。
小野:シャウトの部分はアフレコ現場で何度もやっていたもんね。
堀江:その勢いを見ていたから、小野さんはさぞ気持ち悪く歌われるんだろうなって……。
小野:それって褒められてる?(笑)歌のレコーディングは堀江君の方が先で、スタッフさんから声がガラガラになるまで何テイクも頑張ってましたと聞かされて、「俺もやらなきゃな!」と思ったのを覚えています。声変わり中の歌声ってどうやって出したの?
堀江:声がかすれているけれど、歌そのものは整っているという歌い方がすごく難しくて。歌の後半でだんだん声が出なくなる、みたいなのはテクニックでは表現できないと思って、自分の体でやるしかないかなって……。監督からは、カラオケの歌唱はいっさい修正せずそのまま出すと言われたんですけれど、かなりテイクを重ねたのでどれが本編で使われているか、僕もわかってないんです。
小野:俺もここからここまでと言われた部分を何度も何度も歌ったよ。本来、カラオケって勢いで歌うもので修正できないから、部分的に録りなおしたりしたらやっぱり違うんだろうね。
――作品を楽しみにされている皆さんに、見どころとメッセージをお願いします。
小野:全部やり切った感じで、逆に「ここを頑張ったので見てください」と言えないんですよね。アニメ化で期待される部分や要素が多い作品だと思います。その皆さんが期待してくださるすべての部分を素晴らしいクオリティで再現していると思うので、楽しみに待っていてください。
堀江:僕もファンの皆さんと同じ気持ちで、ただ放送を楽しみにしています。方言ひとつとっても、誰一人「エセ関西弁」と言わせないぞという自信があったり、胸を張ってお届けできる要素が盛りだくさんなので、期待だけして待っていてくれたら嬉しいです。
小野:よろぴく。
取材・文=平岩真輔、写真=干川修