累計380万部突破!アニメ放送もした異世界王宮ロマンス『星降る王国のニナ』。「偽王女」となった孤児と王子の切ない恋愛模様【書評】

マンガ

公開日:2025/7/17

星降る王国のニナ
星降る王国のニナリカチ/講談社

 少女が逞しく生きのびた先に出会ったのは、運命の恋――。

 異世界王宮恋愛コミック『星降る王国のニナ』(リカチ/講談社)が大ヒット中だ。単行本は16巻まで発売中で、シリーズ累計380万部を突破している。2024年秋にはTVアニメーションが放映し、人気の美形キャラたちが動き、喋っていた。印象的なのは、物語のポイントでもある主人公ニナ(CV:田中美海)の青い瞳。この美しい目が物語を動かし、彼女の運命を変えるという説得力を高めている。もちろんアズール(CV:梅原裕一郎)の灰金目(きんめ)や、セト(CV:内山昂輝)の真紅の瞳も映像化されており、ファンにはたまらないはずだ。

 本稿では、本作序盤の展開を中心にレビューしていく。

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■青い瞳をもつ孤児の少女、国を欺く“偽王女”になる

 作品の舞台はい特色豊かな国々が集まる異世界。そんな国のひとつ、フォルトナの孤児・ニナは、ある日その身を買われて“自分を失う”。それは、不慮の事故で亡くなった王女・アリシャに成り代わって生きていくということである。


 ニナを見出したのはフォルトナの美しき王子、アズール。彼はニナの瞳に目を付けた。その星の神のごとき深き青――瑠璃色の目はアリシャ王女の特徴と同じだったのだ。実はアリシャは「星の巫女」の跡継ぎとして離宮で育ったため、王や王妃に顔を見られていなかった。つまり、アズールをはじめとした一部の人間さえ口外しなければ、王宮や国に混乱を招くことなくニナはアリシャになれるのだった。


■王宮で成長するニナと育まれる恋

 本作のメインテーマは異世界の王宮での恋。誰もが憧れる、華やかで美しい恋愛ストーリーではあるのだが、印象はどちらかというといじらしく、せつない。「どうか成就してほしい」と願いたくなる、応援したくなる恋だ。

 文字も読めなかったニナは、美しく着飾るのはもちろん、作法を学び、知識を得て王女として育てられていく。そのなかで彼女はアズールと触れ合い、心を通じ合わせる。彼は、ふたりきりのときだけ「ニナ」と本名を呼んでくれるようになった。彼女は生きるために名前=自分を失ったが、別人に成り代わることを求めて「ニナ」を消したはずのアズールが彼女の救いになる。彼女はこうしてアズールに特別な感情を抱くようになるのだ。


 だが、王女アリシャは大国であるガルガダの第一王子・セトに嫁ぐと決まっていた。この婚姻は極めて政治的で、もしうまくいかなければフォルトナはガルガダに攻められてしまう可能性もあった。これこそ、フォルトナがアリシャを失うわけにはいかなかった理由であり、ニナとアズールが結ばれることが難しい理由でもあった。


 本作は孤児から王女に成り上がって王子と結ばれる、そんなシンプルなラブストーリーではない。だからといって、王宮で育まれる悲恋の物語というわけでもない。

■男たちを変えていく “強い”ヒロイン

 本作はとにかくヒロイン・ニナが強く、魅力的だ。国と国とが争う世界で、彼女はフォルトナを救う英雄になろうとする。彼女は腕力は無いものの、自分の立場を生かし、知恵と勇気をもって彼女なりに戦っていく。

 強い心をもつヒロインがぐいぐいと物語を引っ張っていく。これが『星降る王国のニナ』のポイントのひとつだ。ニナは、孤児から王宮へ何となく流されてきたようだが、あくまで自分の意思で運命に立ち向かっていく。彼女は生きるために、そしてフォルトナを守るという自分の役目を果たすために、ガルガダへ旅立つ。そのときニナは「これはアズールを守るためなのだ」と自分に言い聞かせる。大義と恋のためにその身を捧げるニナは、単純に格好良くて憧れるキャラクターである。

 守られる、と書いたがアズールは文武に秀でた王子である。ただ、クールさを通り越して共感性が低く、感情が無いようだった。ただ、元気で前向きで強いニナによって少しずつ変わっていく。序盤の展開から、アズールがこんなにも大胆で、野望に満ち、情熱的な男になるのか、と驚かされた。なお、彼にもまた大きな秘密があるのだが、それは実際に読んで確かめてみてほしい。


 そしてもう一人、ニナの結婚相手であるガルガダの王子セトもギャップが大きいキャラクターだ。本稿のライターの頭には“クーデレ”という単語が浮かぶ。最初は彼に斬り殺される寸前(!)までいくのだが、めげないニナに対して徐々に心を開くようになり、感情が交わるようになっていく。

運命に屈せず流されないニナは、二人の男性には翻弄されていく。王宮で生まれた難しい恋は混迷の度を増していくのだ。

 気になった方はぜひ追いかけて見届けてほしい。国を欺こうとする偽王女の運命と、そして彼女の恋の行方を。

文=古林恭

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