元・舞妓、高校生になる。“花街での日常”と“その後の人生”を丁寧に綴るコミックエッセイ『舞妓をやめたそのあとで』【書評】
公開日:2025/7/22

京都の花街を歩く舞妓の姿は、つい見惚れてしまうほど艶やかで美しい。ただ、その上品で凛とした佇まいの背景にある日常や、彼女たちの人生の行く末を知る人がどれだけいるだろうか。
元・舞妓の著者が自らの体験談をもとにして描いたコミックエッセイ『舞妓をやめたそのあとで』(松原彩/KADOKAWA)では、花街の裏側で営まれる舞妓の日常生活やその後の人生を垣間見ることができる。
22歳で定時制高校に入学した著者。10代の若者に囲まれながら高校生として授業を受ける彼女は、過去に「松乃」という芸名で舞妓の世界で働いていた。
幼い頃から舞妓になることを夢見ていた彼女の心境が赤裸々に綴られ、花街の華やかな様子だけでなく、その裏側にある厳しくも愛のある日々までもが実体験を通して丁寧な筆致で描写されている。
著者の経験を踏まえて描かれるのは、舞妓として働く日常だけではない。普段は食べられないハンバーガーに喜んだり、数少ない休日は街に出て映画を楽しんだり。等身大の青春を謳歌する「普通の女の子の素顔」もまた、リアルに映し出されている。
さらに本作の特筆すべき点は、舞妓になる夢を叶えた“その後”が描かれること。第1章の舞妓生活とは一転して、第2章では定時制高校で10代の若者たちと過ごす日々が綴られていく。
花街の非日常的な世界とは異なるが、定時制高校での生活もまた、多くの人にとっては未知の世界なのではないだろうか。著者の視点から描かれる高校での人間模様は、彼女の人間味あふれる行動も相まって活気に溢れている。
夢に向かって突き進む勇気だけでなく、夢を叶えてからの人生も歩み続ける覚悟を持ち合わせている著者の姿。それはきっと「普通とはちがう道」に進むことを迷う人の背中を押してくれるはずだ。