年の差50歳の失恋仲間。ふたりのヒロインが、もう一度歩き出すまでの物語『そしてヒロインはいなくなった』【書評】

マンガ

公開日:2025/8/20

そしてヒロインはいなくなった』(ばったん/双葉社)は年の差50歳の女性ふたりが、失恋をきっかけに繋がるシスターフッド・ストーリー。ふたりが失恋仲間として共に励まし合いながら前に進んでいく様が描かれる。恋に悩む読者は、背中を押されること間違いなしの作品だ。

 主人公の妙子は、3年前にいなくなった恋人のことを今も密かに想い続けている。ある日妙子は、行きつけの飲み屋で失恋についてくだを巻く“世界一不幸な悲劇のヒロイン”トラさんについ話しかけてしまう。

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 男に逃げられ、人生最大の失恋を経験しているという共通点を持つふたりは、今でも昔の男への未練がたらたら。共に過ごしながら、誰にも言えない恋の痛みを語り合うようになる。

 合コンに行ったり新しい人とデートをしたりと、ふたりはもう一度恋をしようとチャレンジする。しかし簡単にうまくはいかない。新しい恋に向けて前向きに過ごしていても、ふとしたことで昔の楽しかった思い出が蘇り辛くなってしまう。それでも自分の気持ちと向き合い続ける、不器用ながらも人間らしいふたりを見ていると、なんだか愛おしい気持ちになってくる。

「もう大人なのに、いつまで引きずってるんだろう」そう思いながらも過去の恋を忘れられない気持ち。そんな妙子の葛藤には、きっと多くの人が共感するはずだ。そして、そんな未練に共感し語り合えたり、笑い飛ばしたりしてくれる“誰か”がいるだけでどれほど救われるかを、本作は教えてくれる。

 失った恋を否定せず、抱きしめながら生きていこうとするふたりの姿は、とても美しい。

 恋の答えはひとつではない。きっぱりと忘れて、次の恋やひとりの生活を楽しむのも良いだろう。だが忘れられないのなら、無理に忘れずともいい。たとえ時間がかかっても自分の気持ちを大切にすれば、少しずつ前に進めるはずだ。

 恋に悩むすべての人にそっと寄り添ってくれる、恋と人生のリアルがぎゅっと詰まった1冊である。

文=ネゴト / fumi

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