私の方があの子より格上。略奪愛で人の幸せを壊した悪女を待ち受けていたのは――『かつて女の子だった人たちへ』が共感を呼ぶ理由【書評】
PR 公開日:2025/8/7

略奪愛や不倫で人の幸せを壊した悪女が、優しく心の美しい主人公に仕返しをされる、このようなスカッと展開の復讐ストーリーは多く存在する。しかし、なぜ悪役の女性は誰かを不幸にしてまで幸せになろうとするのか。このような問題に向き合った作品を読んだことはあるだろうか。
コミックシーモアで総合1位を獲得し、TBSとショートドラマアプリ「BUMP」の共同製作ドラマが配信後即1位を記録した話題作『かつて女の子だった人たちへ』(花衣ソノ:作画、砂川雨路:原案/スターツ出版)。シリーズの中でも特に人気が高い「弓とレミ」の物語は、表面的には略奪愛を描いているが、その本質は全く異なる。これは、女性が自分の価値観と向き合う成長の物語なのだ。
主人公のレミは、自分の美しさのために自己投資を惜しまないOL。毎日努力して容姿を磨き続ける目的は、未来の夫候補となるハイスペックな男性を捕まえるためだった。

一方、幼馴染の弓(ユミ)は容姿を気にしない地味なタイプだが、性格が良く、つねに周りには人が集まっていた。レミにとって弓は、自分より格下な存在。弓より上でいたいという執着が、略奪という歪んだ手段へと発展していくのだった。

ある日、弓から気になる存在としてハイスペックな男性・敬士を紹介されたレミ。理想通りの男性である敬士も弓から奪おうと画策する。

弓の恋を応援する素振りを見せつつも、レミからのアプローチにまんざらでもない敬士と関係を深めていく。そして、弓の前で敬士との関係をこれみよがしに見せつけ、弓の傷ついた顔を見ることで歪んだ優越感を満たしていった。

自分の思い通りに理想の男性を手に入れ、幸せ絶頂だったレミ。だが実は弓にも企みがあったのだった。すべてが思い通りに進んでいると信じていたレミに、想像もしなかった現実が待ち受けていた……。
物語が進むにつれ、レミの行動の根底にある価値観が浮き彫りになる。「容姿が良い=幸せ」「見た目が劣る=不幸」という思い込みは、いったい誰によって植え付けられたのか。

幼少期にふと言われた容姿に対する評価が大人になった今でも呪いのように自分を縛りつけている。このような経験がある女性は多いのではないだろうか。綺麗でい続けるための努力を惜しまないレミの物語は、過去に投げかけられた言葉が古傷として残っている「かつて女の子だった」読者の共感を呼んでいる。
悪役であるレミが、自分を縛る呪いとどのように向き合っていくのか注目してほしい。同じ価値観のままでいるか、もしくは自分を変えるのか、選ぶのは自分自身だ。
昔の出来事から生まれた価値基準に悩んでいる人にぜひ本作をおすすめしたい。呪いから抜け出して、本来の自分らしさを取り戻すためのヒントがきっと見つかるはずだ。
文=ネゴト / くるみ