恋を動かすのは5歳児の一言?イケメン大学生とシングルファーザーが紡ぐ愛のかたち【書評】
公開日:2025/8/28

『5000回のおやすみのあとで』(梅渋ちうこ/KADOKAWA)は、大学生とシングルファーザー、そしてその子どもとの穏やかな日常を描いたボーイズラブ作品だ。恋愛としての甘酸っぱさや切なさだけでなく、家族としての絆や愛も丁寧に描かれている。
主人公は大学生の辻澤涼太。イケメンだが極度の人見知りで、唯一の癒しはペットの亀という日々を送っている。そんな涼太は、人付き合いが苦手だった中学時代、家庭教師をしてくれた井本肇(いもとはじめ)への恋心を未だ胸に秘めている。だがある日、シングルファーザーになった肇と偶然再会。料理が苦手だという肇に頼み込まれ、家事全般が得意な涼太は家事代行のバイトをすることに。5歳になる肇の息子・朔とも仲良くなり、3人で過ごす幸せな日々が始まる。
みんなで仲良くご飯を食べたり遊んだりする様子は、穏やかで心が和む場面が随所に描かれている。涼太は思いもよらぬ再会、そして共に過ごす穏やかな日々に幸福を感じるが、人懐こい笑顔を向けてくる肇に想いは募っていき、ある日ついに想いを伝えてしまう。そこから少しずつ動き出す恋模様に、思わずときめいてしまう読者も多いだろう。さらに、朔の子どもらしい純粋なひと言が、2人の距離を一気に近づけたり、ちょっとした誤解を生んだりするのもまた愛おしい。3人が織りなす関係性のなかには、恋愛だけではない「家族のかたち」が息づいている。
好きな人と、その人の大切な存在をまるごと愛すること。涼太のその在り方には、深く心を打たれる。肇も親として朔の気持ちを最優先に考えながら、涼太と真摯に向き合っていく。そして2人の存在を大切に思い、少しずつ成長していく朔。互いを優しく想い合う姿に、読者はきっと愛というものの輪郭を見つめ直すことになるだろう。
最後に描かれる読み切りエピソードでは、大人になった朔の姿が描かれる。このエピソードを読むことで、タイトルの意味が深く心に染み渡る。何気ない日々がつくりだす家族のかたちと愛の深さに、しみじみと心が癒されるはずだ。
文=ネゴト / fumi