芸能界が舞台のアイドルBL。王道王子様×「抱かれたい男」1位のギャップがありすぎる不器用恋愛【書評】

　男性5人組の大人気アイドルグループ、「Abyss（アビス）」の絶対的センター・玲央。音楽番組でコラボすることが決まった新人グループ「CROWN（クラウン）」のリーダー・光瑠を食事に誘い、なりゆきで家に泊めることに。しかしそれを“誘い”と受けとめた光瑠から、猛烈に迫られてしまう……。

　ウェブマンガ誌「花丸漫画」（白泉社）で大好評連載中の、芸能界を舞台にしたアイドルBL『Sexy Sugar Star セクシーシュガースター』（ユキノセ/白泉社）。一見ワイルド、中身は天然＆ピュアな玲央（受け）と、一見キラキラ王子様、しかし中身は激重＆若干ヤンデレの入った光瑠（攻め）。2人ともアイドルとしてのイメージと、実像のギャップの落差が大きい。いや、大きすぎる。そしてその大きさこそが、この作品の魅力だ。

　特に玲央というキャラクターが秀逸だ。

「抱かれたい男」ランキング1位を総なめにしながら、実は恋愛未経験。もちろん童貞。この設定は一歩まちがえたら、読者にあざといと思われるだろう。だけど美麗な絵柄と演出の妙によって、玲央の内面の純粋さと外見の妖艶さが、鮮やかに伝わってくる。

　仲間や光瑠の前で見せる無防備な表情と、オラオラ系の色気を放つ圧倒的ステージパフォーマンス。この二面性には光瑠ならずとも魅了される（それも無意識なのだから！）。

　一方の光瑠は、王子様系アイドルでありながら玲央の熱烈なファンという、これまた絶妙な設定だ。実は玲央に憧れて芸能界に足を踏み入れた彼にとって、いわば玲央は「推し」。推しと共演できるようなアイドルになるのを目指し、ここまで努力してきたのだ。光瑠がもつ眩しいオーラに、自分を凌駕するものを感じる玲央。しかし、彼がどんなに自分に焦がれてここまで這いあがってきたかは知らない。光瑠もけっして玲央に、そんな自分の背景は詳しく語らない。

　ときに一途さが過ぎて暴走してしまう光瑠だけど、裏を返せばそれほど玲央への想いが深いわけでもあって。ファンとしての憧憬と、恋する者としての欲望。これら2つの感情を、きらきら笑顔の底にしのばせているあたり、いい具合にこじれている（誉め言葉です！）。

　第１巻のハイライト、「酔いつぶれた光瑠を玲央が介抱する」場面は、BLの王道展開でありながら、それだけに作家の腕の見せどころだ。そんなつもりはないのに光瑠をあおるような言動をとる玲央と、長年の恋心を解除して欲望をぶつけてくる光瑠。ワイルドなルックの玲央が受けで、柔和な風貌の光瑠が攻め（それもハードな！）というのもまた、ギャップがあってそそられる。

　身体からはじまったセフレのような関係。自分が光瑠にどきどきするのは、彼が初めての相手だから……？　と困惑する玲央と、玲央の身体だけじゃなく心もほしいと切望する光瑠。たくさんのファンに愛を与えるアイドルなのに、2人とも自身の恋愛にはこんなにも不器用で幼い。

でもそこが、読む側からすると、たまらなくきゅんきゅんさせられてしまう。「セクシーシュガー」という題名にふさわしく、甘くてエッチ、かつきらきらしい世界が展開。気になる方はぜひ単行本発売を機に、この世界に足を踏み入れてほしい。

文＝皆川ちか