「私に愛を求めるな」からはじまる政略結婚。冷酷な王との結婚が導く国の再建と人生の再生の物語【書評】

マンガ

公開日:2025/8/23

国外追放された王女は、敵国の氷の王に溺愛される』(まりも璃茉:漫画、坂合奏:原作、さくらもち:キャラクター原案/KADOKAWA)は、理不尽にすべてを奪われた王女が、異国の地で少しずつ「自分の居場所」を取り戻していく過程を描いたシンデレラロマンスだ。

 本作のヒロイン・ジョジュは、継母暗殺未遂の汚名を着せられ、腹違いの兄たちの陰謀によって国外追放される。嫁ぎ先となったのは、冷酷と噂される辺境の王・エミリオンのもと。彼は初対面で「私に愛を求めるな」と言い放ち、結婚生活の幕は不穏な空気の中で開かれる。あまりにも理不尽な悪意に晒され続けてきた過去のせいか、ジョジュはすべてを“政略結婚だから”と諦めているようにも見える。その姿は痛々しく、胸を締めつけられずにはいられない。

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 しかし、彼女がたどり着いた小国ロニーノでの日々は、試練であると同時に希望でもあった。改革派と旧体制派が対立する政情不安なこの国で、ジョジュは持ち前の知性と誠実さを武器に、少しずつ信頼を勝ち取り、国の再建を目指していく。悲劇に次ぐ悲劇に読者はもどかしさを覚えるかもしれないが、やがてジョジュの努力が実を結び、国の未来を変えていく様子は爽快で、希望に満ちている。

 当初は警戒の目を向けられていた彼女が、やがて人々に受け入れられ、絆を育みながら少しずつ笑顔を取り戻し、“必要とされる存在”になっていく――そんな変化はとても丁寧に描かれており、ページをめくるたびに心があたたかくなるだろう。

 そして、氷のように閉ざされていたエミリオンの心にも、彼女の存在は静かに変化をもたらしていく。信頼、協力、そしてやがて芽生える愛。過去の痛みに囚われながらも、前を向こうとするふたりの姿は、まっすぐに胸を打つ。

 不遇な運命のなかでも、自らの手で新たな居場所と温もりを築いていくジョジュの姿に、多くの読者が勇気と癒しをもらえるだろう。

文=ネゴト / すずかん

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