「脈ありかも」と思った瞬間に突きつけられる現実。情緒をめちゃくちゃにされたダメ男に共感必至のジェットコースターラブストーリー【書評】
公開日:2025/8/23

こんな経験はないだろうか。「この人、もしかして私に気がある……?」そう思った矢先、あっさり冗談で流され、何事もなかったかのように振る舞われる。心が浮ついた直後に、冷たい現実に引き戻される。そんな感情の高低差を味わったことがある人にこそ、ぜひ手に取ってほしい作品がある。
『情緒をめちゃくちゃにしてくる女』(蝉丸/KADOKAWA)は、恋愛初心者の陰キャ男子・ゆー太が、刺激的で不安定な関係に巻き込まれていく、追体験型ラブストーリーだ。
SNSの趣味アカウントで出会った相手と、思い切ってオフ会をすることになったゆー太。待ち合わせ場所に現れたのは、想像を遥かに超える美人なお姉さん・梓だった。
突然現れた非日常の出来事に、戸惑いと緊張で挙動不審になるゆー太。そんな彼を面白がるように、梓は小悪魔的な言動で翻弄する。自虐気味に「ダメ人間」とこぼす彼に、彼女が投げかけた“ある提案”とは――?
ちょっとした言葉に一喜一憂し、「脈ありかも」と思った矢先、あっさりかわされる。まるで感情を試すかのように、期待と落胆を繰り返させる彼女の態度に、読者もまた、ゆー太とともに揺さぶられていく。
そんな刺激的な関係に、もう一人のヒロイン・あまてらさんが加わることで、物語にさらなる深みが加わっていく。ゆー太をまっすぐに慕う、素直で一生懸命な彼女の存在は、対照的な魅力として物語に新たな温度をもたらす。
最新刊・第3巻では、ついに梓とのお泊まりデートが実現。物理的な距離は縮まっても、心の距離はそう簡単には埋まらない。近づいたと思った瞬間に突き放される。この高低差こそが、本作の真骨頂。そして、読者を恋の沼へと落とし込む最大の魅力でもある。
なぜ彼女は、こんなにも心をかき乱すのだろうか? その思わせぶりな言葉や態度に込められた真意とは? 本当に恋をしてはいけない相手なのか。それとも?
本作が描くのは、ただのラブストーリーではない。読者の感情までも巻き込んでいく、“体験型の恋愛ドラマ”なのだ。ゆー太の心の揺れに共鳴し、読み手もまた、恋に落ちていく。
振り回されるばかりの恋の行方を見届けたい人、あるいは、いままさに揺さぶられる恋の真っ只中にいる人に。強くおすすめしたい一作である。