転生した世界で与えられたのは異端の魔法!? 自分の本当の力を知るとき、物語は大きく動き出す『無属性魔法の救世主』【書評】
PR 公開日:2025/8/15

「自由に生きたい」。そう願ったことが、あなたにもあるのではないか。学校、家庭、近所付き合い、SNS、職場。生きているだけで息が詰まってしまう現代社会。「全部投げ出して、ひとりになれたら楽なのに」なんて、つい考えてしまう。だけど、本当にひとりになったとき、あなたは心の底から笑えるだろうか?
『無属性魔法の救世主』(武藤健太:原作、るろお:キャラクター原案、あさくら夢紀:漫画/イマジカインフォス)は、剣と魔法のファンタジー世界に転生した主人公が、不遇な境遇にもめげずに世の中の理不尽に立ち向かい、異世界の救世主となっていく王道ファンタジー。原作はヒーロー文庫で現在12巻も続く人気シリーズ。本稿で紹介するのは、そのコミカライズ版だ。
物語は、ひとりの青年が交通事故で命を落とすところから始まる。気づけば彼は、剣と魔法の異世界に転生していた。前世の記憶を持ったまま、平民の少年アスラとして新しい人生を歩み始める。この世界では魔法が存在し、人々は生まれながらにして火・水・風・土・光・闇のいずれかの属性を与えられる。しかし、アスラに与えられたのは異端の魔法とされる「無属性魔法」だったのだ。

主人公のアスラは生まれながらに不幸を背負った不憫な少年だ。父は失踪、母とふたり、魔術の名門フォンタリウス家に妾として引き取られる。当主ゼフツには見下され、周囲から冷笑を浴びせられ、反抗的な性格に育ったアスラだったが、そんな恵まれない境遇でも独学で魔力を発現し、魔法を学んでいく向上心が素晴らしい。


そんなアスラを母親のルナは愛していた。そしてフォンタリウス家の長女ミレディも、幼なじみとして彼を慕っていた。ふたりの存在が、彼を少しずつ変えていく――はずだった。運命は無慈悲にも、彼のわずかな希望を奪い去る。


母ルナが流行り病に倒れ、アスラの必死の看病もむなしく帰らぬ人となる。「無属性」であることが判明した彼は家を追放され、ミレディとも引き裂かれてしまうのだ。守ってくれた母親も、大切な幼なじみも、すべて失ったアスラに残されたのは、たったひとつの「自由」。


ああ、自由とは、こんなにも孤独で悲しいものなのだろうかと、読みながら胸が締めつけられる。しがらみに押しつぶされそうだったアスラが、それを全部失った瞬間、逆にどれだけ大切なものに囲まれていたのかに気づくのだ。悲しみを抱えながらもアスラは立ち上がる。孤独と不遇を背負い、強く生きていこうとする幼い姿に、感銘を抱くのだ。
私たちは生活の中にある、さまざまな“しがらみ”を面倒に感じて過ごしている。しかし、その“しがらみ”が、ときに私たちを守り、支えてくれるものにもなる。日常がしんどいと思ったとき、人間関係が面倒になったとき。この物語を読んでみてほしい。もしかしたら、自分が思うほど、この世の中は悪いものじゃないのかもしれない――そんな風に思えてくる。
文=愛咲優詩