「道楽」で異世界を旅する中年男のファンタジー! 仕事に追われる日々から一変、自由気ままな暮らしを満喫【書評】
PR 公開日:2025/8/16

肩肘はらず、気楽に人々を救う。コミック『異世界道楽に飽きたら』(三文烏札矢:原作、ともぞ:キャラクター原案/イマジカインフォス)は、仕事に追われて「余裕」を欲する中年男が、ある日迷い込んでしまった異世界でマイペースに冒険を繰り広げる、ゆるく、ほのぼのとしたファンタジー作品だ。


たまには仕事から離れ、日常のわずらわしさから解放されたいと、思う人も多いのではないだろうか。本書で描かれる物語は、その極地といえるほど。まさに憧れだ。


異世界モノではおなじみの展開で、主人公の男は自身に備わる“能力”を活用する。その力とは「複製」だ。願うだけでモノを何でも実体化できる力で、炎に肉にと様々なモノを生み出して「こりゃ完全に異世界と認めるしかねぇな〜」と、メタ的につぶやく場面にはなぜかうらやましさすらおぼえてしまう。


そして、とにかく強い。山中で会った熊を相手にキックを決め、手のひらで生み出される炎でイチコロにする。それでも常に「道楽」として、異世界である種の“スローライフ”に興じる男のスタンスには、惹かれてしまうのが不思議だ。


作中でも、男に惹かれるキャラクターが次々と登場する。道中でふと出会った「3人娘」は、旅を共にする仲間に。ゴブリンに襲われていた家族を「お困りのようでしたので勝手に倒しました」と、しれっとやってのけるのも、なんだかカッコよく見えてくるのだ。


もちろん“この世界”で得た知識も、フル活用する。「火魔法」の才能がある家族の母親に、学校で学んだ“酸素と火”の知識を教えながら、もっと強くなるための魔法のコツを伝授。弓と槍のスキルを扱う兄妹には特訓を施し、異世界の人々と温かく交流する場面では、心がほっこりする。


本作で描かれるのは、転生した異世界で持ち前のスキルによって無双する“王道”な展開ではない。望んでいた「時間的余裕」を手に入れた男が、異世界で「道楽」にふける姿が描かれている。ストレスだらけの現実世界から離れて、自由気ままに異世界を冒険する男の物語には、日常の自分も重ねたくなる。何かのきっかけでふと、男のように、魔法の絨毯に乗って異世界をのんびり旅歩く日がやってくるのなら――。いや、やってきてほしいとすら想像したくなるほど、こちらもほのぼのと楽しめる1冊だ。
文=カネコシュウヘイ