社畜OL、転職先は悪役令嬢の秘書でした。冷酷で優しいご主人様との異世界百合ファンタジー【書評】
公開日:2025/8/24

『限界OLさんは悪役令嬢さまに仕えたい』(ネコ太郎/秋田書店)は、社畜気質で「自分の価値」を見失っていた主人公が、悪役令嬢との出会いをきっかけに、かけがえのない居場所と自分らしさを取り戻していく、異世界お仕え系ファンタジーだ。
派遣社員として日々こき使われ、評価もされず、ついには派遣切りにあった名鳥翠(なとり・みどり)。「私を必要としてくれる場所なんてない」そんな絶望の中、彼女はノベルゲームの世界に召喚されてしまう。しかも目の前に現れたのは、推しキャラではなく、作中屈指の悪役令嬢、ラピス・テネブラエ。残虐非道で知られる彼女に命を狙われるのでは──と身構える翠だったが、ゲーム知識を活かしてラピスの命を救ったことで、秘書として仕えることに。
悪役令嬢・ラピス様は、単なるサディストや気まぐれなお嬢様ではない。守りたいもののためなら冷徹な道も厭わないという矜持を持ち、悪役に徹する覚悟を背負った存在だ。その一方で、翠にだけ向ける優しいまなざしに触れるたび、彼女の“人間らしさ”がにじみ出て、読む側の胸をぎゅっと締めつけてくる。物語が進むほどに、そんな彼女の魅力にときめかずにはいられない。
ラピス様にまっすぐ尽くし、支えられながら、確かな評価を受けていく翠の姿もまた眩しい。ブラック労働に疲れ、他人の顔色ばかりうかがっていた彼女が、「私の働きをちゃんと見てくれる人がいる」「必要としてくれる場所がある」そう実感したときの、一瞬の救済感。その感情は友愛を超えて、どこか恋心のようにも映る。
2人の関係は雇用主と秘書という枠を超え、確実に絆を深めていく。ラピス様にとって特別な存在になっていく翠の姿には、百合的なときめきもほのかに漂う。そして、翠が“本来の推し”としていた主人公・ダイアナも登場し、ラピス様×翠×ダイアナという、美しい三角関係の行方にも目が離せない。
誰かの居場所になることと、自分の居場所を見つけることは、こんなにも深く、優しく、心を満たしてくれるのか。悪役令嬢と限界OLが織りなす、救いとときめきの異世界百合ファンタジー。『限界OLさんは悪役令嬢さまに仕えたい』は、「推しに仕えたい」という願望を、あらゆる角度から叶えてくれる珠玉の一作だ。