ルームシェアのお相手は1016歳のエルフ。路頭に迷う女子高生とエルフの異種族の同居生活【書評】

マンガ

公開日:2025/8/25

 神話やファンタジー作品に登場する架空の種族、“エルフ”。すらりとした体型や尖った耳が特徴的で、美しい容姿で描かれることが多い。神秘的な雰囲気を漂わせるその姿に憧れを抱くファンタジーファンも少なくないだろう。

エルフとひとつ屋根の下』(いくたはな/秋田書店)では、そんなエルフとひょんなことから同居することになった女子高生の日常が、やさしいタッチで描かれる。

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 主人公は、新潟県で下宿する高校2年生の女の子・上杉景。元旦に起きた地震をきっかけに住んでいたアパートの取り壊しが決まり困り果てた彼女は、藁にもすがる思いで大家に相談の電話をかける。

 初めて顔を合わせた大家は、どこか浮世離れした儚げな美女。なんとその正体は、1016年を生きる“エルフ”だった。エルフは景に、条件に合う物件がないなら自分とルームシェアをしないかと申し出る。戸惑いながらも、住む場所を失う不安に背中を押され、景はエルフの家に住むことを決意。こうして、年の差1000歳、価値観どころか、種族すら違う二人の奇妙な同居生活が幕を開けたのだが——。

 本作の見どころは、人間とは異なる時の流れの中で生きるエルフの抱える孤独感や、長い時を生きる中で背負ってきた記憶の重みが、物語の随所に繊細に描き出されている点だ。エルフの心には無数の出会いと別れが刻まれており、もう二度と会うことのできない大切な誰かへの想いが、今もなお静かに燃え続けているのだ。悠久の時の中で出会い、別れてきた人々の想いや願い。それらを忘れまいとするかのように、彼女は一つひとつの物語を大切に書き留めている。

 そんなエルフにとって、可愛い同居人・景ははたしてどのような存在となるのだろうか。永遠に近い時を生きる者と、限りある命を生きる者。二人が互いの違いを受け入れ、徐々に心を通わせていく姿が読者の胸にやさしく迫る。違いを超えて結ばれる心の交流に、静かに心を動かされる1冊。異種族ファンタジーの魅力が、ここに詰まっている。

文=ネゴト / 糸野旬

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