推しに認知されるなんてもってのほか!寡黙な手芸男子とゲーム好きこじらせOLに訪れたオフラインのラブ【書評】
公開日:2025/8/27

インターネットが発達した現在、匿名で本業とは別の活動を行っている人は少なくない。配信者として動画を投稿したり、インフルエンサーとして情報を発信したり…と、その内容は人それぞれ。『配信者・ハケンOLと手芸屋メロ』(らくだ/KADOKAWA)は、そんな「裏の顔」をふとした偶然から意図せぬかたちで職場の同僚に知られてしまった会社員の日常を描いた物語だ。
主人公は、日中は普通のOLとして働き、夜は人気ゲーム配信者「ハケンOL」として活動する女性・山本すみれ。軽い気持ちでゲーム配信を始めて早5年、仕事の愚痴や雑談を織り交ぜながらのゲーム実況がなぜかウケてしまい、いまやインターネット上では多くのファンに囲まれる存在だ。
そんなすみれのひそかな楽しみは、手芸系動画配信者「手芸屋メロ」の配信を見ること。優しい声と丁寧な手仕事に心を和ませながらも、「推しに認知されるなんてもってのほか!」という信念を持つ彼女は、ただ一方的に動画を楽しむにとどまっていた。そんなある日、職場に谷という男性が入社してくる。仕事を通して谷と関わる中で、すみれは彼こそが「手芸屋メロ」であると確信してしまうのだが——!?
インターネット上の世界には、匿名ゆえの自由がある。人目を気にせず自分の好みを語ったり、創作を発信したり、時には普段は口にできない本音をこぼしたり。現実とは異なるもうひとつの居場所として、居心地の良さを感じている人も多いだろう。
しかし、いくら匿名の場といえども、そこに存在する人間関係や感情は本物だ。匿名だからこそ築かれる絆や、顔も知らない推しへの敬意。本作では、それらがふいに現実世界と交差したときの登場人物の心の揺らぎや迷いが丁寧に掘り下げられている。それぞれ匿名での顔を持つすみれと谷。現実では交わるはずがなかったふたりが紡ぐ、じれったくも愛おしい関係に胸キュンが止まらない作品だ。