静寂を愛する猫に、気立てのいい猫。愛情表現も自由さも十猫十色の猫たちとの暮らし【書評】
公開日:2025/8/27

『にひきといっぴき』『にひきといっぴき2 おかわり』(草間さかえ/KADOKAWA)は、大人気BL作家・草間さかえさんが送るコミックエッセイ。猫たちと過ごすかけがえのない日々がやさしいタッチで描かれている。
本作に登場するのは、著者とともにのびのびと暮らす歴代の愛猫たち。静寂を愛するメス猫・王子、優しさあふれるオス猫・そらお、気立てが良い子・でび子、黒猫のおんちゃん、そして新入りの保護猫・きーち。それぞれが異なる個性を持ち、好みもしぐさも十人十色、いや十猫十色だ。
本作の見どころは、著者の視点から語られる猫たちの愛らしさ、そして繊細な絵柄の一つひとつににじみ出る猫たちへの深い愛情だ。
猫はたしかに可愛らしい動物だが、犬のように人間に無条件で懐くことは少ない。自尊心や自立心がとても強い存在なのだ。だからこそ、心を許してくれた瞬間の尊さや、一緒に過ごす時間のあたたかさが、より際立って感じられるのかもしれない。猫たちのさりげないしぐさや、「撫でて」と甘えるときの表情、鳴き声ひとつで気持ちを伝える独特の意思表示――その一つひとつに、猫という生き物の魅力がたっぷり詰まっている。
また、飼い主である著者の姿が人間ではなく犬の姿で描かれていることも、本作の魅力のひとつだろう。自身を猫と対照的な存在ともいえる犬として描いたのは、猫たちとの関係をよりユニークに、そしてより愛情深く伝えるためだろうか。自由奔放さや気まぐれさに振り回されながらも根気強く寄り添う“飼い主”の姿は、作品全体にやさしい温もりと独特の味わいを加えている。
著者の細やかな観察眼が光るエピソードの数々は、猫好きはもちろん、動物と暮らすすべての人の共感を呼ぶだろう。猫と暮らしたことがある人やこれから猫と暮らしたい人にとって、きっと新たな発見があるに違いない。猫と人との関係の奥深さと愛しさを改めて感じさせてくれる、心温まる一冊となるはずだ。