不登校の少女と愛犬のトイプードル。出会いから看取りまで、愛にあふれた13年間が教えてくれる「犬と家族になること」の意味【書評】
公開日:2025/8/26

『おはよう、サンテ 不登校の私を救った愛犬との日々』(肥前ロンズ:原作、むぴー:漫画/KADOKAWA)は、原作者・肥前ロンズさんと愛犬のサンテが過ごした13年間を、やさしいタッチで描いたコミックエッセイ。カクヨムWeb小説短編賞2023(エッセイ・ノンフィクション部門)短編特別賞を受賞した小説のコミカライズ版だ。
小学6年生の頃、心に深い傷を負い、学校に通えなくなっていた肥前さん。そんな日々を変えるきっかけとなったのは、母の「犬、飼おうか」というひと言だった。迎え入れたトイプードルの子犬に与えられた名前は「サンテ」。それは、フランス語で「健康」を意味する言葉。当時の彼女が何より必要としていたものだった。
家に来たばかりのサンテはとても臆病な性格だったが、しだいに家族の中に溶け込み、みるみるうちに成長を遂げていく。言葉は通じないはずなのに心が通い合う穏やかな時間は、疲弊していた肥前さんの心をゆるやかに癒やしていった。サンテと肥前さんはともに育ち、どんどん絆を深めていく。
犬は古くから人間に寄り添って生きてきた動物であり、そのやさしさや高い共感力から、人間の良き伴侶として親しまれてきた。
飼い主が楽しい瞬間には一緒に体を動かして嬉しさを表現し、飼い主が悲しみに沈んでいるときには、そっと隣に座り、黙って寄り添う。そんな犬の愛すべき特性に癒やされたり、救われたりした経験のある人も多いだろう。言葉を持たない動物だからこその無垢でまっすぐな愛情表現が、読者の胸にやさしく迫る。
肥前さんにとってサンテは、ともに成長し、苦楽をともにする家族そのものだったのだ。
けれど、犬は人よりも先に老いてゆくのが自然な流れ。本作では、ともに過ごす温かな時間だけでなく、介護や看取りといった現実的な出来事も余すところなく描かれている。
愛犬と生きる日々のかけがえのなさ、そして命と真正面から向き合うことの尊さを教えてくれる1冊だ。