政略結婚ものの“おいしいところ”が詰まった少女マンガ。噓が本当になっていく、『狼皇子と嘘つきな結婚』大転換の最新刊【書評】
PR 公開日:2025/8/20

復讐ものならスカッとするカタルシス、異世界ものならヒールを一掃する爽快感など、物語のジャンルには“おいしい”部分がある。恋愛もののトレンドジャンルのひとつ、政略結婚ものなら、「嘘が本当になっていくとき」が“おいしい”部分のひとつだろう。政略結婚という本来愛情とは無縁の偽りの結婚が、本当の愛になっていったり、実はちゃんと愛情があったことがわかっていったり……そんな瞬間にはこのジャンルの魅力が詰まっている。
3巻が発売された『狼皇子と嘘つきな結婚』(音久無/白泉社)は、ちょうどその“おいしい”部分が味わえる展開を迎えている。
本作は、王女でありながら故国では疎まれていた主人公・アイリンと、辺境で暮らす皇子・ルスランの結婚を描いた物語。政略という形で始まったふたりの結婚生活だが、「落ちぶれ皇子」と呼ばれているルスランの裏の顔や、クールに見える態度の奥にあるアイリンへの愛情が徐々に見えてくる。
最新3巻の注目ポイントは、まず敵対国の皇子・イヴァンの登場だ。イヴァンは幼い頃からアイリンを知っており、ルスランと結婚したのを知っていてもお構いなしで好意を寄せてくる。そんな様子を目にすることで、嫉妬心をくすぐられて衝動的にキスしそうになったり、動揺を隠せなかったりするルスランの姿はグッとくるポイントのひとつだ。

ちなみに、いろんな意味でイヴァンを警戒するルスランとは対称的に、イヴァンの好意にまるで気付かず、普段どおりの一生懸命さを見せるアイリンのかわいらしさも見どころ。この「まだまだ子ども」というアイリンの表情は、かわいらしくて面白い反面、ルスランの心を余計に揺さぶる。純真で無防備すぎるアイリンに心を寄せるルスランの内心を思うと、読んでいるこちらもヤキモキしてしまう。


今巻でもうひとつドラマチックなのはルスランの回想だ。この回想のなかで、とある「嘘」が明かされる。
本作ではタイトルにもあるとおり、さまざまな「嘘」がキーワードになっている。先述のとある「嘘」は、単なる嘘ではなく、ルスランからアイリンへの気持ちの大きな変化に繋がっていくものだ。ここもまた、今巻の大きなときめき要素だろう。


この嘘を自覚したことで、ルスランのアイリンへの愛情表現も以前よりストレートになっていく。皇子という立場もあって、おそらく本来以上に大人として振る舞っているルスランが、アイリンの前では素直な青年らしい表情を見せるようになっていく様子は印象的だ。
偽りから始まった関係がグッと本物に近づいていく今巻は、まさに政略結婚ものの見どころが詰まった1冊。いよいよ自分の気持ちに向き合いはじめるアイリンの姿などを含め、キュンとするシーン満載だ。
文=小林聖