天国に行ってもあなたのことが大好き。永遠の別れの先にある愛と優しさを描く『天国での暮らしはどうですか』【書評】
公開日:2025/8/25

大切な人や愛するペットとの別れは、誰にとっても避けられない。今はもう会えない大切な存在を思い出して、涙する日もあるだろう。
そんな心をそっと温めてくれる1冊が『天国での暮らしはどうですか』(中山有香里/KADOKAWA)だ。
現役看護師である著者は『泣きたい夜の甘味処』『疲れた人に夜食を届ける出前店』など、心に優しく染み入る作品を数多く手掛けてきた。本作もその温もりに満ちた作風で、SNSで話題となっている。
物語の舞台は天国。そこには亡くなった人やペットたちが穏やかに暮らす世界が広がっている。彼らは「下界池」と呼ばれる池から、かつて一緒に過ごした家族や友人を見守っているのだ。
相手の近況に一喜一憂し、ハラハラし、ときに微笑む。そこには生前と変わらぬ深い愛情がある。
大好きな家族に会いたくて「下界行き申請」をする犬や、飼い主にどうしても伝えたいことがあって「夢枕チャレンジ」に挑戦する猫。そして天国で家族を迎えるために準備を整えるペットたち……そんな彼らの健気な行動には、胸をうたれる。…
生死を問わず、本作に登場する誰もがみな、例外なくお互いを深く想い合っている。描かれるやりとりのひとつひとつはまさに愛に他ならず、心にじんわりと染み入る。
ページをめくるごとにもう会えない存在への懐かしさと、今そばにいる存在への愛しさが同時に込み上げる。生きている限り、別れはいつか必ず訪れる。しかし共に過ごした時間や想い合った記憶、幸せな瞬間は決して消えることはない。
本作を読むと、愛する者たちが今いる場所が、どうか温かなものであってほしいと願わずにはいられない。大切な存在との永遠の別れを経験した全ての人の心に、そっと寄り添う優しい物語である。
文=ネゴト / fumi