水上恒司さんが選んだ1冊は?「よくわからない物事に出会っても理解しようとすることが大事」

あの人と本の話 and more

公開日:2025/9/4

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年9月号からの転載です。

 撮影の待ち時間や就寝前など、日常的に読書をするという水上さん。ジャンルを問わず、好奇心のおもむくままに本を選んでいるそう。

「ある本を読んだら、そこに出てくる国の歴史や民俗学が気になり、また次の本へ。つい先日までは地政学の本を読んでいました」

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 この本も、偶然の出会いによって手にした一冊。

「『あ、村上春樹が質問に答えているんだ』と気になって。と言っても、村上さんの小説は読んだことがないんですけどね(笑)」

 印象に残っているのは、翻訳の際、原文の意味を取れずに仕事を投げ出したくなるときがあるという翻訳家のお悩みに対する村上さんの答え─「人間の考えることが、人間に理解できないわけがない」。

「よくわからない物事に出会っても、理解しようとすることが大事なんですよね。甘えた考えかもしれませんが、僕らが作る映像作品もそう思ってもらえたら。それに、僕ら俳優は皆さんに知っていただくほど、好かれるだけでなく嫌われることも増えていきます。作品に影響が出ないよう、個人的な発言も控えるようになって。そんな時にも、この言葉を思い出すと根本的な解決にはならないですが、気が楽になる気がします」

 水上さんが吉岡里帆さんとW主演した映画『九龍ジェネリックロマンス』も、ただわかりやすさを追求するのではなく、解釈の幅が広い作品だ。

「原作は説明的すぎず余白があるからこそ、読み手の考察も広がります」

 水上さん演じる工藤発は、九龍城砦の不動産屋で働く34歳。吉岡さん演じる鯨井令子を気にかけながらも、大きな秘密を抱える人物だ。

「僕より9歳上の人間を演じるのが挑戦でした。工藤が抱える痛みを、僕は人生で経験したことがありません。疑似的に作るのか、実際に痛みを具現化するのか、どうアプローチするか考えるのも楽しみで」

 意識したのは「ダメな男」。

「三國連太郎さんの主演映画『王将』をご存じですか? 主人公は、将棋に魅入られたダメな父親。奥さんからは仕事するよう言われるけれど、結局また将棋を指している。でも愛嬌があって憎めないんです。工藤も、ダメな男だけど魅力的に映るよう意識しました。令子を抱きしめながら、むしろ抱かれに行っている。カッコつけても、結局甘えてすべてを委ねている。そこに感動が生まれるよう、台本を読み解きました。ぜひふたりの行方を見届けていただきたいです」

取材・文=野本由起、写真=山田大輔
ヘアメイク=KOHEY(HAKU)、スタイリング=藤長祥平

みずかみ・こうし●1999年、福岡県生まれ。2018年、ドラマ『中学聖日記』で俳優デビュー。映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。その他の出演作に、映画『死刑にいたる病』、ドラマ『ブギウギ』など。現在、WOWOWドラマ『怪物』に出演中。

 『村上さんのところ』

村上さんのところ
(村上春樹/新潮文庫)1100円(税込)

村上作品に関する素朴な疑問から、恋愛・人間関係・仕事の悩み、社会問題や音楽、映画、猫まで、世界中から寄せられたメールに、村上春樹さん本人が回答。期間限定サイト「村上さんのところ」から選りすぐった473通を、フジモトマサルさんのイラストマンガとともに収録。

映画『九龍ジェネリックロマンス
原作:眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス』(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載) 監督:池田千尋 
出演:吉岡里帆、水上恒司、竜星 涼、栁 俊太郎ほか 
企画・配給:バンダイナムコフィルムワークス 8月29日より全国ロードショー 

●過去の記憶がない鯨井令子と誰にも明かせない過去をもつ工藤発の恋。ふたりの距離が近づくほど深まる謎。その真相にたどりつく時、ふたりは究極の選択を迫られる──。九龍を舞台にした、ミステリー・ラブロマンス。
©眉月じゅん/集英社・映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会

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