自己犠牲の人生はやめました。突然のガン宣告をされたCAが本当の自分に気づいた話【書評】
公開日:2025/9/7

大きな病気の発覚は、それまでの人生や生き方を見直すきっかけになることは少なくない。健康であることを当たり前に思っていた日常が揺らぎ、その結果、自分の身体や心と改めて向き合う時間が生まれる。これまで見過ごしてきた問題や違和感に目を向ける中で、新たな価値観や生き方が見えてくることもあるだろう。
『おはよう、おやすみ、また明日。』(御前モカ/秋田書店)は、突然のがん告知を受けた主人公が、病気をきっかけに「自分を大切にする方法」を探す物語だ。
主人公・秋山紅葉は、CAとして働く独身女性。小中高大を通じて「自己犠牲が美徳」の女子校で育ったせいか、はたまた職業病か、どんなときも自分のことは後回しにし、まずは相手がどう感じるかを第一に行動して生きてきた。
しかし、そんな彼女の人生はがん告知を機にがらりと変わる。病気になったことで、彼女の中に初めて「自分自身を労りたい」という感情が芽生える。周囲に気を遣いながら本当の自分の気持ちを押し込めて生きてきた主人公は、ようやく自分を優先し、残された時間を楽しみ尽くす覚悟を決める。
本作では、闘病を通して新たな考え方や価値観に気づいていく、主人公の心の変化が丹念に描かれている。
たとえば、入院前に気分転換にと訪れたネイルサロンでの出来事はまさに象徴的だ。これからつらい治療を控えている主人公は、若くて健康そうな担当ネイリストのツヤツヤした肌や髪を見て、思わず妬ましさを感じてしまう。しかし会話をする中で、実は彼女は高校時代に脱毛症を発症しており、ウィッグとつけまつげで自分らしさを保っていることを知るのだった。
人は皆、見えない事情を抱えて生きているものなのかもしれない。その気づきは、“どうして自分が病気になったのか”と自問し続けていた主人公の心に、静かに光を灯す。自分だけが苦しいのではないと知り、彼女は徐々に前を向く力を取り戻していく。誰かの痛みに想像を巡らせることの大切さを、そっと教えてくれる物語である。