教材となった『アオアシ』への、深い理解と“好き”があるからこそ【編集者の顔が見てみたい!!】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/8/28

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年8月号からの転載です。

◎今月の編集者

元小学館第四コミック局
コミックス企画室 編集長 松井秀明さん

まつい・ひであき●小学館に入社後、『週刊少年サンデー』『ビッグコミックスペリオール』『週刊ビッグコミックスピリッツ』と一貫してマンガ誌の編集に携わる。担当作に『フットボールネーション』など。

 本書の基になったのは、2022年に刊行した『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方』。「自ら考え動く」こと、すなわち自律的な「学び方」についての本で、実は「教え方」論も含む予定でした。ですがページ数の都合や、著者の仲山さん曰くまだ構想が熟しきっていないとのことで入れませんでした。その後仲山さんは「エコロジカルアプローチ」理論と出会って思索を深め、また本の売れ行きもよかったので続編を作ることに。

 元々は前任者が立ち上げた企画でしたが、異動にともない私が引き継ぎました。私は長らくマンガ編集をしており、サッカー作品を担当したこともあります。そういう背景があったため、マンガ以外の本を手がけるのは初めてでしたが気負わず取り組むことができました。すでに仲山さんの中で内容は固まっていたので、折々で意見交換をしつつ全体的にはスムースに進みました。

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 目指したのは、「教えすぎ」「教えなさすぎ」問題をはじめ、ともすれば抽象的になりかねない概念についてマンガを用いることで分かりやすく伝えること。なによりも仲山さんは『アオアシ』への理解が深いのです。テーマだけでなく、本書におけるキーパーソンともいえる福田監督の人物像を、表情や台詞まで含めて考察されている。単にマンガを教材として捉えているのではなく、本当に『アオアシ』が好きで、読み込んでおられるのだとマンガ編集者として分かりました。

 マンガからふんだんに引用するのも仲山さんのアイディアです。デザイナーさんはさぞ大変だったと思いますが、マンガのページも活字のページも読みやすく仕上げてくださり感謝です。

 本書を読んで『アオアシ』に興味を持ってくださった方も多いようで、普段マンガを読まない方やサッカーを知らない方にも届いている実感があります。もし第3弾を出すとしたら、次はうんとサッカー目線に振りきった内容にするのもいいですね。

 『アオアシに学ぶ「答えを教えない」教え方 自律的に学ぶ個と組織を育む「お題設計アプローチ」とは』
『アオアシに学ぶ「答えを教えない」教え方 自律的に学ぶ個と組織を育む「お題設計アプローチ」とは』(仲山進也/小学館)1650円(税込)

 自分でつかんだ答えなら一生忘れない―。自律自走型の組織作りを長年探求する著者が、人気マンガを教材に解き明かす『教える』ということ。「ティーチング」と「コーチング」の違い、愚者風リーダーシップなどの学びが満載。

マンガを教材にした見事な組織マネジメント本

 著者の仲山さんは僕にとって組織論においての師匠のような方。チームビルディングの方法を学ぶために研修を受けさせてもらったこともある。そんな仲山さんがサッカーマンガ『アオアシ』を教材に、組織マネジメントの在り方を伝える本の第2弾を刊行された。

 がっつり作品に寄り添いながら組織論が展開され、マンガ関連本としてもビジネス書としても読み応えがある。長大なマンガの中から論旨にぴったりの部分を引用しているのも見事だ。『アオアシ』への愛情が感じられる。どのような視点から作ったのか伺い、マンガ関連本を作るうえで参考にしたい。

さどしま・ようへい●1979年生まれ。講談社勤務を経て、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。

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