3匹のカラーひよこが成長したら喋り出した。巨大ニワトリと暮らしはじめた世捨て人の愉快で奇想天外な山暮らし【書評】
公開日:2025/9/8

『前略、山暮らしを始めました。』(浅葱:原作、しの:キャラクター原案、濱田みふみ:漫画/KADOKAWA)は、タイトルから想像される素朴でゆるやかな田舎暮らしとはひと味違う物語だ。
結婚が白紙になり、何もかもが嫌になった佐野昇平(25歳)は、世捨て人になるため山を買ってそこで暮らすことを決意。だが数日で寂しさを感じてしまった昇平は、お祭りでカラーひよこ3羽を購入し、それぞれポチ、タマ、ユマと名付けて、一緒に悠々自適な田舎暮らしを始める……はずだった。なんと、ひよこたちは1カ月もすると、巨大なニワトリに成長し、尻尾はまるで恐竜のように。さらには、言葉まで喋り始めてしまう。まさかの謎多きニワトリたちとの不思議な山暮らしが始まってしまったのだ。
3羽のニワトリは見た目のインパクトに反して、とても愛嬌たっぷり。表情や性格もそれぞれ違っていて、餌を嬉しそうに食べる姿も可愛らしく、ユマだけがお風呂好きで他の2匹は嫌がったりとそれぞれの個性も微笑ましい。時にはマムシを捕まえたり、イノシシを狩ってきたりとニワトリらしからぬ活躍で昇平の生活を支えてくれる。ページをめくるごとに、「こんなニワトリたちと一緒に暮らしてみたい」と思わず感じてしまうこと間違いなしだ。
当初は人間関係に疲れ、傷ついた心を抱えていた昇平。しかし、ニワトリたちとの奇想天外な日々や山で出会った人々との交流を通じて、少しずつ心が癒されていく。特に、隣の山で暮らす女性・実弥との出会いや、彼女とのこまやかな恋模様が、物語に優しい彩りを添えている。彼女の連れている巨大すぎるドラゴンのようなトカゲの行動も見どころのひとつだ。
一般的なカントリーライフとは少し異なるが、巨大ニワトリたちとの時間は癒しと楽しさに満ちている。忙しい日常に疲れた時、この優しくてちょっぴり奇妙な山暮らしに触れれば、あなたの心もきっとふわりとほぐれていくだろう。
文=ネゴト / fumi