『アオアシ』最後のゴールを決める選手はずっと前から決まっていた。編集者とのバトルで生まれた“予定外の展開”【小林有吾×担当編集 今野真吾インタビュー 前編】
公開日:2025/8/29

『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載されていた漫画『アオアシ』(小林有吾/小学館)。10年の連載を経て2025年6月23日に最終話を迎えた。本作は主人公のポジションがディフェンダーのサイドバックであること(多くのサッカー漫画の主人公はフォワードやミッドフィルダー)、舞台がJリーグの育成組織である「ユース」であることなど、これまでのサッカー漫画とは一線を画し、たくさんの話題を集めてきた。
作者の小林有吾さんは過去のインタビューで「作品の8割ぐらいは編集者と会話をして作っている」と語っていた。その編集者の名は、小学館の今野真吾さん。今野さんは連載開始から完結までの10年間、小林さんと共に作品に向き合ってきた。
作家と編集者の関係に迫るダ・ヴィンチWebの連載「編集者と私」第2回。今回は小林有吾さんと今野真吾さんにご登場いただき、前後編でお届けする。前半は、お二人の「会話」の内容や、それによって生まれた展開。そして最高のクライマックスとなったバルセロナ戦ユース戦の裏側を聞いた。
編集者との会話で広がるものが作品のすべて
ーー本日はよろしくお願いいたします。まずなにより『アオアシ』完結おめでとうございます!
小林有吾(以下、小林):ありがとうございます!
ーー描き上げてから少し時間が経ったとは思いますが、完結を迎えてどんなお気持ちですか?
小林:とにかく「ホっとした」の一言です。自分の中では何年も前から『アオアシ』のラストは決まっていました。そこに向かって週刊ペースで少しずつ紡いでいって、「まだたどり着かないのか!」と何度も思いながらついにその日を迎えて。無事に頭の中にあるものを描き切れて本当によかったと思います。
ーー小林先生は過去のインタビューで「作品の8割ぐらいは編集者と会話をして作っている」と話されていました。その形は最後まで変わらずでしたか?
小林:変わりませんでした。僕の場合は、担当編集者との会話の中で広がるものが作品のすべてなんです。だから今野さんとは作品のためにたくさんお話しさせていただきました。10年間担当さんが代わることなく、一時期は家族より長い時間話していたので(笑)。実は、次回作の担当編集は今野さんではないことが決まっていて、もうこれでお別れだと思うとさみしかったですね。
ーー今野さんは完結を迎えていかがでしたか?
今野真吾(以下、今野):僕もさみしいという気持ちが一番大きかったです。1年間のうち80%ぐらいが小林さんと会話する時間だったので。それがなくなるというのは、生活というか人生が大きく変わってしまうという感覚でした。もちろん最後まで走り抜けたことへの安心や喜びもあるのですが、さみしさ、感慨深さのほうが勝っていたと思います。

阿久津の過去、プロ練習編は描く予定がなかった
ーーお2人が会話するなかで、小林先生の頭にもともとあった構想から変わった展開などもあるのでしょうか?
小林:ありますね。ほとんどは自分の思い描いたとおりでいくのですが、今野さんは要所要所でハッキリと「これでは伝わらない」といったことを単刀直入に言うんです。僕はそうは思わないのに…というところで何度もバトルがありまして(笑)。
ーーバトルが!
小林:彼は決して引くことがなく、その違和感を解消させないことには先に進めないんです。深夜に3〜4時間話しても決着がつかないとか、もう大変でしたよ(笑)。でも、そのバトルが『アオアシ』の精度をより高めてくれたんですよね。
ーー今野さんは、編集者として、作品のために譲れないラインがあったということでしょうか?
今野:まあそうです。って言えたら、かっこいいのでしょうね(笑)。本当はもっと曖昧で、「なんだかイヤ」と感じたときに我慢せず言うようにしていた感じです。
ーーでも、その「なんだかイヤ」を解消しないと絶対先に進めなかった?
今野:そうですね。1回でも「まあOKです」と言ってしまったら、ずっとそうなる気がしたので。そうしたら自分が編集者としてダメになってしまうというか。まあ、そもそも「なんだか」じゃなくて、ちゃんと理屈で説明しろよって話なんですけどね。それができなかったから、ただ粘ることしかできなかったんです。
小林:でも、そうしたバトルを乗り越えたあとで残るものは、作品の根幹に関わるすごく大事なものになるんですよね。
ーーバトルの末に構想から変わった展開、具体的にお聞かせいただけますか?
小林:例えば、阿久津の過去エピソードです。直接サッカーに関わることではないので僕は描く予定がなかったのですが、今野さんが「描かないといけない」と。過去を描かないと阿久津という人間をわかってもらえない、ということだったと思います。そこまで言うのなら…ということで、すごく暗い話でしたけど描きました。
ーーそうだったんですね。阿久津の過去を描いたことで、バルセロナ戦の阿久津の覚醒によりカタルシスが生まれたと思います。
小林:そうなんですよね。もうひとつはプロ練習参加編です。1回でもプロに練習参加してしまうと、もうユースの試合をやる意味がなくなると思っていたのですが、今野さんが「見たい」ということで、彼のアイデアを汲んで描きましたけど…まあ、やってよかったですね(笑)。
