『アオアシ』最後のゴールを決める選手はずっと前から決まっていた。編集者とのバトルで生まれた“予定外の展開”【小林有吾×担当編集 今野真吾インタビュー 前編】
公開日:2025/8/29
バルセロナ戦、読者は負けると思っていた?
ーーエピソードが追加される以外に、試合展開やゴールを決める選手が構想から変わることはあったのでしょうか?
小林:バルセロナユース戦で言えば、葦人が最後にゴールを決めて勝つというのは決めていました。スコアは、確かバルサ戦を描き始めてから決めた気がします。「点取り合戦になるな」とは思っていていましたけどね。
ーーじゃあ、基本的には構想通りに試合が進むことが多かった?
小林:そうですね。試合展開自体はほぼイメージ通りでした。
ーーここからは、そのバルセロナユース戦のことをお聞かせください。他作品のたとえで恐縮ですが、『SLAM DUNK』の山王戦のような、今までの集大成というような凄まじさがあり、特に後半は読んでいて気持ちよかったです。
小林:これが『アオアシ』で描く最後の試合だというのはわかっていたので、気持ちはすごく乗っていたと思います。後半の葦人が覚醒してからはもう気持ちよく描けていたんですが、そこまでのバルサに全く通用しない状態が何巻も続くのは読者の方々がしんどいだろうなと思っていて。「しんどいけど、それでも読んでもらえる」というギリギリのところを保つのがすごく大変でした。
ーー「最後にはきっと葦人たちが勝つはずだ」と信じて待っていてくれる読者がいるだろうと。
小林:そう思いたかったのですが…読者の感想を見ると「この試合は負ける」と思っていた人が多かったようです。特にバルサ戦で完結することを発表していない頃は「世界の壁を知って、また日本に帰って鍛えなおすんだろう」なんて予想がありました。勝つと思っていた人のほうが少なかった気がしますね。

最後のゴールは主人公が決めるべき
ーーその後半、しんどい展開を経て、阿久津と葦人の覚醒による逆襲が始まってからは本当にカタルシスがありました。特に阿久津が本当にかっこよかったです…。
小林:阿久津は本当に思い入れが強いキャラクターです。今後も描けないだろうなというぐらい、かなり特別な思いがありました。彼が言っていることはよく聞くと筋が通っていて、「勝たないと何の意味もない」というのは本当にそのとおりだなと。「それに比べると、葦人は甘いよな」と思いながら描いていました。
ーー阿久津の生い立ちはバルセロナのデミアンと同様、サッカーでチャンスをつかまないと人生が終わる、という過酷なものでした。
小林:どんなにプロフェッショナルな人でも、成長する意欲がなくなった途端にダメになってしまう。そういったパターンを僕も実際に見てきたので。そうならないためには、阿久津のように生きるのが最も正しいんじゃないかと思っています。
ーー今野さんは、試合終盤の阿久津と葦人の覚醒をどのように見られていましたか?
今野:阿久津がリベロ、葦人がフリーマンとなってバルサを崩していくことは、かなり初期から決まっていました。読者も喜んでくれるはずだと信じていたし、小林先生が描いてくださったらすごくかっこよくなるだろうと。だから、ずっとワクワクして待っていたという感じですね。

ーー先ほど「葦人が最後にゴールを決めるというのは決めていた」とおっしゃっていたのですが、それこそ阿久津など他の選手が決める展開もあり得たのかなと思います。葦人に決めさせたというのはどういう思いがあったのでしょうか?
小林:それはもう主人公が決めるべきです!(笑)。現実のサッカーでサイドバックが点を取るというのは変だなというのはわかるんです。でも、そこは漫画の決着としてとして誰が点を取るかといったら、それは主人公しかいないだろうと。
ーーバルサ戦に限らず、葦人はサイドバックに転向してからも要所要所でゴールを決めてきましたよね。
小林:そうですね。連載初期のセレクションのときも葦人が点を取りましたけど、当初は違う展開を考えていたんです。点を取れずに終わるか、せいぜいアシストか。それが今野さんの案でギリギリ方向転換して、葦人がゴールを決めて。その回の評判がよくて結果として『アオアシ』の連載を続けることができたと思っているので。あのとき今野さんの案を聞いてよかったなとずっと思ってるんです。
ーー今野さんは、どんな意図でその提案をしたか覚えていますか?
今野:なんとなく「主人公が活躍したほうがいいのかな」というのはもちろんあったと思うんですが。そういった理屈よりももっと感覚的なところで「ここで葦人がゴール決めない漫画はなんだか変だな」という。それが一番強かったです。
小林:なるほどね(笑)。
取材・文=金沢俊吾
<第4回に続く>