小林有吾「『アオアシ』がダメだったら人生が終わる」という感覚があった。ライバルのハングリー精神が強い理由とは【小林有吾×担当編集 今野真吾インタビュー 後編】
公開日:2025/8/30

漫画『アオアシ』(小学館)の作者・小林有吾さんは一般企業に就職後、漫画家を志し、30歳手前でデビューを果たした。しかし、ご家族を養っていけるほどの大ヒット作は生まれず、『アオアシ』を描くにあたって「本物のプロの漫画家になれていない。今度こそは……」という強い思いがあったという。
担当編集の今野真吾さんは、そんな小林さんについて「その熱い思いを“プロになって母に楽をさせたい”という葦人の気持ちに重ねているのだと思います」と語った。10年間の連載期間で、その思いはどのような形で『アオアシ』に反映されたのだろうか。
作家と編集者の関係に迫る連載「編集者と私」第2回。前半は、お二人のやりとりや、それによって生まれた展開、バルセロナユース戦の裏側を聞いた。後半となる今回はキャラクターの“ハングリー精神”について、多忙ななか複数連載を抱える理由、そしてお互いの魅力や“編集者の存在意義”についてお話しいただいた。
『アオアシ』がダメだったらもう人生が終わる
ーーデミアンをはじめとするバルセロナの選手たちに限らず、過去には青森星蘭の選手など、東京エスペリオンよりも過酷でハングリーさが求められる環境で育った選手が強敵として立ちはだかりました。先生ご自身の考えとして、過酷な環境に置かれたほうが人は強くなると思われますか?
小林有吾(以下、小林):そうですね、思います。これは僕自身の経験が影響しているのかなと。僕は幼少期にお金がない家で育ち、漫画というものにたまたま出会えて今の仕事に就けましたが「もし実家に漫画がなかったら、人生どうなっていたんだろう」と思うことがあるんです。
「漫画家になってすごく描きたいものがある」というよりは「なんとか現状を変えたい」とか「このままでは人生がダメになるから、すべてをここにぶつけるしかない」とか、そういう感覚でした。そんなハングリー精神の塊みたいな人間が描く漫画なので、そういった面が強く出るのかなと思います。
ーー今野さんも過去のインタビューで「先生はこれまで家族を養えるほどのヒット作が出ていなかった。“今度こそは…”という思いがあったそうだ」と話されていました。
小林:僕も今野さんも、お互いに「『アオアシ』がダメだったらもう人生が終わる」という感覚があったのだろうと思います。特に連載が始まった頃は余裕もなく、打ち合わせだってものすごく精神的に疲弊するものでした。お互いが面白いと思うものを言うしかない。でも、それが本当に正しいかどうかわからない。そんな状態でしたね。
今野真吾(以下、今野):連載当初、僕は30歳で、小林さんがおっしゃるように「今回ダメだったら、編集者としてもうチャンスが回ってこないかもしれない」という感覚がありました。小林さん、そして『アオアシ』という作品との出会いは、漫画編集人生で初めて巡ってきた超大きなチャンスだと。だから悔いを残してはいけない、という気持ちが強かったですね。

最初から最後まで言いたかったのは「サッカーを見てくれ」ということ
ーーバルセロナユース戦勝利を経て、最終話のことをぜひ伺わせてください。最終話の展開も以前から決まっていたのでしょうか?
小林:最終話のかたちはもう4、5年前に決まっていました。花との関係に決着がついて、1話の最後と同じように、福田監督の「世界へ、連れていってやる。」という言葉で青空を見上げながら終わるというのはもうずっと決めていました。
ーー「さあ、育成だ」という福田監督の言葉はとても印象でした。「育成」という、ユースを舞台にした本作のテーマをズバっと言ってくれたような。
小林:そうですね。最後までテーマはブレなかったという自負があります。読者の皆様はプロ編や日本代表戦も見たかったのではないかと思うんですが、クラブのユース育成の話を描き切ろうと決めていました。そういう意味では、まあ、1話で提示したことをすべて回収して終われたんじゃないかなと思います。
ーー育成というと、バルサ戦の最終盤に登場した「休日のふとした中で、サッカーの試合をする子供達を見たとする」から始まるモノローグはとても感動的でした。あのモノローグに込めた思いがあればぜひ教えてください。
小林:『アオアシ』を通して最初から最後まで言いたかったのは「サッカーを見てくれ」ということでした。サッカーって、別になくても生きていけるものですよね。ほとんどの人はやったこともない。でも、本当にサッカーって身近にあって世界中で愛されているスポーツなんです。『アオアシ』を読んで、興味がなかった人にも、サッカーを日常の中で意識してみてほしい。そんなメッセージを込めてあのモノローグを描きました。
