小林有吾「『アオアシ』がダメだったら人生が終わる」という感覚があった。ライバルのハングリー精神が強い理由とは【小林有吾×担当編集 今野真吾インタビュー 後編】

マンガ

公開日:2025/8/30

小林先生は読者より“少しだけ先に進んでいる”

ーーここからは『アオアシ』以外のこともお聞かせください。今野さんは『アオアシ』連載開始以前から小林先生のファンで『水の森』(講談社)を読んで涙が止まらなかった、と話されていたそうですね。今野さんにお伺いしたいのですが、小林先生の漫画家としての魅力をあえて言葉にすると、どういった点でしょうか?

今野:漫画家って「先生」と呼ばれるじゃないですか。「先に生きる」と書きますよね。読者よりも先に生きて「こういう道があるんだよ」とか「この先はこういう風景だよ」と読者に言えるのが小林さんの魅力かなと思います。それって、コマ割りや絵が上手いとかそういう話ではなくて、どういう人間観を持っているのか、どんなことを考えて生きているかが大切なのかなと。

小林:僕のような作風の場合、人並外れた感覚を持って描いても、そんなにたくさんの人には読んでもらえないだろうと思うんです。「読者はこう考えるだろう」みたいなことをある程度読んで、そのうえで想像の数ページ先まで用意することの繰り返しで。だから、言われてみれば確かに「少しだけ先に進んでいる」とも言えるかもしれません。

ーー小林先生がたくさん考えられて作品を描いているのと同様に、『アオアシ』や『フェルマーの料理』など、作品内でも「登場人物が思考すること」が重要なポイントになっていますよね。

小林:そうですね。僕自身が本当に理屈っぽい、計算するタイプの人間なので、今後も作風の根幹としてそれが大きく変わることはないのかなと思います。もっと日常的というか本当に何も考えずに描けるような漫画だったらそこから離れるかもしれませんが、なにか題材があって強いドラマを描くとなると、そこからは目をそむけられないと思います。

ーー今野さんは、登場人物たちが思考をたくさん巡らせる、小林先生の作風をどのように捉えられていますか?

今野:小林さんの作品に登場する人々は、みんなすごく誠実なんです。僕だったら「もう考えるの面倒臭いからこっちでいいや」となりそうなところで、彼らは「どちらにいくべきか」をものすごく突き詰める。それは本当に誠実な行為だと思うし、彼らには小林さんの誠実さが反映されているのだと、勝手ながら思っています。

「休まなくても描ける」と示したかった

ーー小林先生の誠実さといえば、「『ショート・ピースIII』を描くにあたって決めたことは、『アオアシ』を休まない」というお話がありました。そもそも週刊連載を続けながら、まとまった量の読み切りを描くってものすごく大変だと思うのですが、やはり『アオアシ』読者への誠実さ、のようなものがそうさせたのでしょうか?

小林:そうですね…誠実なのでしょうね(笑)。いやでも、休むという発想はもう全くありませんでした。『ショート・ピースIII』を描かせてもらいたいとこちらからお願いしているので、『アオアシ』に迷惑をかけることは絶対したくないと。

ーーしかも、2018年に『フェルマーの料理』の月刊連載がスタート、さらに2021年からは『アオアシ ブラザーフット』も始まりました。週刊連載ひとつでもものすごく大変な中、なぜ複数連載にチャレンジするのでしょうか?

小林:『アオアシ』を続ける中でネームにもそんなに迷わなくなったので、週に1日ぐらい時間ができたんですよ。月で換算すると4日ぐらいできると。「あれ?もう1本これは描ける!」となりまして。

ーー時間ができたから休む、という発想は…?

小林:僕は休んでもやることがないんですよね(笑)。漫画を描いているときが一番自分らしいと思っていて。『アオアシ』を絶対に休まないでもう1作描くことは自然な流れだったというか。あと「休まなくても描ける」と示したかったのもありました。僕は、連載漫画があんまり休載になってほしくないんですよ。だって、読者の方々は毎週読みたいですよね?

ーーまあそうですね。週刊漫画誌をパラパラめくって目当ての作品が休載だとガッカリしたりします。

小林:そうですよね。だから、少なくとも僕は自分の作品を読んでくれる読者さんに、そんな思いをしてほしくないんです。

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