周囲の感情を受け取りすぎて苦しい…。「ある日、会社に行けなくなった夫」の本音を作者が語る【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/9/6

 共働きのパパママと息子の3人暮らしという、どこにでもある子育て家庭の川田家。ところが、人づきあいが苦手な夫の俊(とし)が会社を辞めてからは家庭での役割が激変。それまで家事育児はほぼ妻の沙月が担っていたが、俊は【主夫】として家事と育児をこなし、沙月は【大黒柱妻】として家計を支えることになる。

 ある日、彼らは“何かを変えたい”という想いで都会から葉山に移住。山や海などの自然があふれ、ご近所づきあいが盛んなこの町で、俊は会社員の頃とは違う人づきあいに奮闘する。一方の沙月は、俊の家事や育児に不満タラタラ、仕事では上司と部下の板挟みに…。

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 それぞれの立場で悩む彼らが、葉山の豊かな自然に癒され、そこに住む人々との関わりの中で徐々に変わっていく漫画『夫ですが会社辞めました』(とげとげ。/KADOKAWA)。川田家が移住先で見つけた、ちょうどいい家族のかたちや、疲れない人間関係とは? 作者のとげとげ。さんに本作への想いを聞きました。

——俊はみんなと同じような“普通”のことができず、ある日、会社に行けなくなってしまった人物。彼をどのように描こうと思いましたか?

とげとげ。さん(以下、とげとげ。):俊のモデルは、私の身近にいる繊細で内向的、そしてどこかのんびりとした雰囲気を持つ人たちの“集合体”です。「もっと社交的に」「もっと効率的に」という要望に応えられなかったとしても、環境が変われば本来の魅力が自然とあらわれる。そんな“場に左右される人の魅力”を描きたかった。私自身も人間関係において繊細な面があるので、その部分を膨らませて反映したところもあります。“みんなと同じじゃなくても大丈夫”と感じられる存在になればと願っています。

——俊は会社員の頃、人の表情から伝わる怒りや苛つき、蔑み、呆れなどに恐怖感を抱いていました。保育園の送迎でも、ママ友同士のトラブルを瞬時に察知して関わらないようにしますね。

とげとげ。:俊のように、表情や場の空気、周囲の感情を敏感に受け取りすぎてしまう“繊細さ”を持つ人って、じつは少なくないと思うんです。私自身もそういう傾向があって、相手が何も言っていないのに“怒っているかも”“呆れているかも”と勝手に受け取って苦しくなることがあります。時には逃げながら、日常のちょっとしたストレスを何とかやり過ごしている俊の姿を通して、“敏感ゆえのしんどさ”や、それでも前に進もうとする小さな強さを描きたいと思いました。

——会社に行けなくなってしまった俊に共感する声もありましたか?

とげとげ。:「つらい状況でも、家族の形を保つために、お互いが折り合いをつけながら前に進んでいく姿に共感しました」という声を多くいただきました。実際、働けなくなった自分を責めてしまう方や、それを周りに言えずに苦しんでいる方はいると思います。そういう方々の想いを、この漫画が“そういうこともあるよね”と受け止められたら嬉しいです。

取材・文=吉田あき

とげとげ。
元ナースの漫画家・イラストレーター。埼玉県出身、葉山町在住。自身の育児漫画日記『ママまっしぐら』、創作育児漫画『夫ですが会社辞めました』『母ですが妻やめました』『「小1の壁」の向こうに』など、リアルな育児を描く。

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