「休職した」と妻に言えない夫。目を合わせなくなった妻。それぞれの心境は?【著者インタビュー】
公開日:2025/9/7

共働きのパパママと息子の3人暮らしという、どこにでもある子育て家庭の川田家。ところが、人づきあいが苦手な夫の俊(とし)が会社を辞めてからは家庭での役割が激変。それまで家事育児はほぼ妻の沙月が担っていたが、俊は【主夫】として家事と育児をこなし、沙月は【大黒柱妻】として家計を支えることになる。
ある日、彼らは“何かを変えたい”という想いで都会から葉山に移住。山や海などの自然があふれ、ご近所づきあいが盛んなこの町で、俊は会社員の頃とは違う人づきあいに奮闘する。一方の沙月は、俊の家事や育児に不満タラタラ、仕事では上司と部下の板挟みに…。
それぞれの立場で悩む彼らが、葉山の豊かな自然に癒され、そこに住む人々との関わりの中で徐々に変わっていく漫画『夫ですが会社辞めました』(とげとげ。/KADOKAWA)。川田家が移住先で見つけた、ちょうどいい家族のかたちや、疲れない人間関係とは? 作者のとげとげ。さんに本作への想いを聞きました。
——人づきあいのモヤモヤから会社に行けなくなった夫の俊は、それから3ヶ月間、休職したことを妻の沙月に打ち明けられずにいました。どんな心境だったのでしょうか。
とげとげ。さん(以下、とげとげ。):いつかバレるとわかっていながら、“今この瞬間から逃げたい”という気持ちが先立って、隠す以外に選べなかったのだと思います。彼の育った家庭も、弱さや失敗を受け止めてくれる環境ではなかったので、親兄弟に否定されたくない気持ちもあったんでしょうね。私が沙月だったらやっぱり言ってくれないことに対して怒ると思うし、受け入れられないと思います。でも、少しずつ話を聞いて相手の苦しみを理解していけたら…とも思います。
——主夫になってしばらく経った頃、沙月が目を合わせてくれなくなります。沙月は俊の家事や育児に不満があったようですが、このエピソードを描いた理由とは?
とげとげ。:じつは私自身、ワンオペ育児がつらくて夫の目を見られなくなった時期があったんです。怒りのピークを超えると、今度は夫を無視するようになって…。無視って一種の暴力ですよね。その経験もあって、「怒り」と「無視」のあいだにある感情の揺れや距離感を描こうと思いました。
——その一方で、保育園の送迎でよく会うソラくんパパとは、パパ友のような関係になっていきますね。ソラくんパパは“空気を読まない”人で、人づきあいが苦手な俊は面倒くさがりますが、だんだん心を許すようになります。
とげとげ。:私の友人にソラくんパパのような方がいるんです。周りと噛み合わず、浮いてしまうことも多いけど、子どもへの接し方が丁寧で、尊敬できる部分がたくさんあります。人ってどうしても周囲に合わせがちだけど、そんな「当たり前」や「こうあるべき」をソラくんパパのような人が、いい意味で壊してくれる。だから、ソラくんパパが俊の転機のきっかけになるような存在にしたかった。友人というより知り合いに近い距離感で、なんとなく一緒にいられる相手って、大人になればなるほど貴重だと思います。
取材・文=吉田あき
とげとげ。
元ナースの漫画家・イラストレーター。埼玉県出身、葉山町在住。自身の育児漫画日記『ママまっしぐら』、創作育児漫画『夫ですが会社辞めました』『母ですが妻やめました』『「小1の壁」の向こうに』など、リアルな育児を描く。
<新連載『50歳、その先の人生がわからない』(よみタイ/集英社)スタート!>
同じ高校を卒業して30年、それぞれ異なる生き方をしてきた二人の同級生が、キャリア・家庭・老いといった人生の分岐点に立ち、それぞれの「これから」を見つめなおす物語。2025年8月24日より月1更新中。