「主夫」である自分に自信が持てない…。会社を辞めたパパの葛藤とは【著者インタビュー】
公開日:2025/9/8

共働きのパパママと息子の3人暮らしという、どこにでもある子育て家庭の川田家。ところが、人づきあいが苦手な夫の俊(とし)が会社を辞めてからは家庭での役割が激変。それまで家事育児はほぼ妻の沙月が担っていたが、俊は【主夫】として家事と育児をこなし、沙月は【大黒柱妻】として家計を支えることになる。
ある日、彼らは“何かを変えたい”という想いで都会から葉山に移住。山や海などの自然があふれ、ご近所づきあいが盛んなこの町で、俊は会社員の頃とは違う人づきあいに奮闘する。一方の沙月は、俊の家事や育児に不満タラタラ、仕事では上司と部下の板挟みに…。
それぞれの立場で悩む彼らが、葉山の豊かな自然に癒され、そこに住む人々との関わりの中で徐々に変わっていく漫画『夫ですが会社辞めました』(とげとげ。/KADOKAWA)。川田家が移住先で見つけた、ちょうどいい家族のかたちや、疲れない人間関係とは? 作者のとげとげ。さんに本作への想いを聞きました。
——以前より増えたとはいえ、「主夫」はまだまだ少数派です。主夫という存在をどのように描きたいと思いましたか?
とげとげ。さん(以下、とげとげ。):私の印象では、主夫って基本的には「主婦」と同じで、性別が違うだけだと思っています。でも実際にはジェンダーバイアスが根強く、「男なのに家にいるの?」と偏見を持たれたりして、引け目を感じますよね。そんな中でも、家庭を支えることの尊さや大変さに気づいて「自分は主夫だ」と受け入れる過程を、俊を通して描きたいと思いました。
——たしかに、俊も周りの人に自分が主夫だと伝えられずにいますね。沙月はさも簡単に打ち明けていますが。
とげとげ。:男性の場合、「男らしさ」や「一家の大黒柱であるべき」といった価値観に縛られているぶん、自分にOKを出せないというか、誰かに後ろ指をさされているような感覚が抜けないのでしょうね。女性はもともと“家のことをする人”と見られているから、「夫が主夫です」と言いやすい部分があるのかなと。性別による役割の歴史がまだまだ影を落としていると感じます。
——主夫としての俊の家事や育児に目を向けると、「洗濯物をしまえていない」「洗面器の裏が汚いまま」など、詰めの甘さが目立ちます。性格のせいなのか、性別の違いなのか、それとも経験や真剣度の違いなのか…と考えさせられました。
とげとげ。:私自身は「性格7割、経験3割」くらいかなと感じています。性別はあまり関係ないのかもしれません。我が家でも、私より夫のほうが細かい部分に気づくこともあるので。どちらかというと個人差でしょうか。俊については、気にならないんだと思います。汚れや不快さの“感知センサー”って人によって違いますよね。そのズレが詰めの甘さに見えるのかもしれません。
取材・文=吉田あき
とげとげ。
元ナースの漫画家・イラストレーター。埼玉県出身、葉山町在住。自身の育児漫画日記『ママまっしぐら』、創作育児漫画『夫ですが会社辞めました』『母ですが妻やめました』『「小1の壁」の向こうに』など、リアルな育児を描く。
<新連載『50歳、その先の人生がわからない』(よみタイ/集英社)スタート!>
同じ高校を卒業して30年、それぞれ異なる生き方をしてきた二人の同級生が、キャリア・家庭・老いといった人生の分岐点に立ち、それぞれの「これから」を見つめなおす物語。2025年8月24日より月1更新中。