「私が稼がないと家族を守れない」「子どもの一番でいられない」“大黒柱妻”が抱える悩みとは【著者インタビュー】

マンガ

公開日:2025/9/10

 共働きのパパママと息子の3人暮らしという、どこにでもある子育て家庭の川田家。ところが、人づきあいが苦手な夫の俊(とし)が会社を辞めてからは家庭での役割が激変。それまで家事育児はほぼ妻の沙月が担っていたが、俊は【主夫】として家事と育児をこなし、沙月は【大黒柱妻】として家計を支えることになる。

 ある日、彼らは“何かを変えたい”という想いで都会から葉山に移住。山や海などの自然があふれ、ご近所づきあいが盛んなこの町で、俊は会社員の頃とは違う人づきあいに奮闘する。一方の沙月は、俊の家事や育児に不満タラタラ、仕事では上司と部下の板挟みに…。

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 それぞれの立場で悩む彼らが、葉山の豊かな自然に癒され、そこに住む人々との関わりの中で徐々に変わっていく漫画『夫ですが会社辞めました』(とげとげ。/KADOKAWA)。川田家が移住先で見つけた、ちょうどいい家族のかたちや、疲れない人間関係とは? 作者のとげとげ。さんに本作への想いを聞きました。

——読者からは、どんな反響が届きましたか?

とげとげ。さん(以下、とげとげ。):「共感しました」「つらい時に読むと気持ちが軽くなります」などの感想をいただくと、自分と重ねながら読んでくれているんだな、と嬉しくなりました。俊には「甘えてる」「そろそろ仕事探したほうがいい」などの厳しい意見もありました。もし会社を辞めて専業主婦になったのが沙月だったら、同じようには言われなかったかもしれません。性別による見られ方の違いを感じ、私自身の視点もどんどん広がりました。

——妻の沙月は、働くのは嫌いではなさそうですが、上司と部下の板挟みに悩み、自分が稼がないと家族を守れないというプレッシャーも感じています。口癖は「私ばっかり」。大黒柱妻の苦悩をどのように描こうと思いましたか?

とげとげ。:「私ばっかり」は、私自身がワンオペでつらかったとき、夫によく口にしていた言葉です。「なんで私だけこんなに頑張ってるの?」「私ばっかり我慢してる」と感情的になることが多くて。でも後から、夫には夫なりの大変さや苦しさがあったことに気づいたんです。“心のすれ違い”や“つい出てしまう本音”を、沙月のキャラクターを通して表現しました。

——俊が主夫になってから半年。沙月は息子のカズが喘息で入院したとき、カズが自分よりパパに懐いているのを見て、「好きで大黒柱になったわけじゃない」と傷つきます。「カズの一番でいたかった」という気持ちに深く共感しました。

とげとげ。:子どもに「ママが一番」と言われるときの優越感って、育児の中で大きな支えになっていますよね。大変なことがあっても「自分はこの子にとって特別」と思えたら、母親としての自信を保てる。だから沙月は、“特別な存在”の座を奪われてものすごく傷ついたし、複雑な感情が湧いたんだと思います。

取材・文=吉田あき

とげとげ。
元ナースの漫画家・イラストレーター。埼玉県出身、葉山町在住。自身の育児漫画日記『ママまっしぐら』、創作育児漫画『夫ですが会社辞めました』『母ですが妻やめました』『「小1の壁」の向こうに』など、リアルな育児を描く。

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