「人づきあいが苦手」で会社を辞めた主夫。移住先の“ゆるいつながり”の中で、手に入れたものは?【著者インタビュー】
公開日:2025/9/14

共働きのパパママと息子の3人暮らしという、どこにでもある子育て家庭の川田家。ところが、人づきあいが苦手な夫の俊(とし)が会社を辞めてからは家庭での役割が激変。それまで家事育児はほぼ妻の沙月が担っていたが、俊は【主夫】として家事と育児をこなし、沙月は【大黒柱妻】として家計を支えることになる。
ある日、彼らは“何かを変えたい”という想いで都会から葉山に移住。山や海などの自然があふれ、ご近所づきあいが盛んなこの町で、俊は会社員の頃とは違う人づきあいに奮闘する。一方の沙月は、俊の家事や育児に不満タラタラ、仕事では上司と部下の板挟みに…。
それぞれの立場で悩む彼らが、葉山の豊かな自然に癒され、そこに住む人々との関わりの中で徐々に変わっていく漫画『夫ですが会社辞めました』(とげとげ。/KADOKAWA)。川田家が移住先で見つけた、ちょうどいい家族のかたちや、疲れない人間関係とは? 作者のとげとげ。さんに本作への想いを聞きました。
——会社を辞めて主夫をしていた俊は、葉山で暮らすうちに、地元の人から単発で仕事を受けるようになります。会社員の頃とは違う「話しやすさ」に心地よさを感じ、主夫業にも喜びを見出すように…。どんな心の変化があったのでしょうか。
とげとげ。さん(以下、とげとげ。):会社員の頃は、常に“人の評価”や“周囲の目”にさらされ、高い生産性を求められるプレッシャーの中で、緊張感を抱えて働いていたと思います。そうした評価や競争から少し距離を置けたことで、「仕事=結果を出すもの」という感覚から、「誰かの役に立つことが嬉しい」というシンプルな喜びに、気持ちが切り替わっていったのだと思います。
また、地元の人たちとのやりとりでは、“会社の顔”としてではなく、“個人”として関われる安心感がある。そんな環境の中で、家事や料理などの日常の営みにも、小さな達成感や喜びを見出せるようになった。彼にとって、自分らしくいられる生き方をようやく手にし始めたタイミングだったのかもしれません。
——沙月もまた、家族と過ごす時間の大切さを実感してテレワークに転身。近所のシェアオフィスでは新しい出会いもあり、表情もやわらかくなったようです。
とげとげ。:新しい働き方になったことで、家族と過ごす時間をしっかり取れるようになったのは大きな変化だったと思います。これまでの彼女は「仕事とはこうあるべき」「ちゃんとしていないと評価されない」と、自分自身に厳しく、頑なな働き方を貫いてきました。でもその“絶対こうでなければ”という思いから、少し解放されたんじゃないかなと感じます。
何を大切にしたいかという人生の優先順位がはっきりして、柔軟に生きることの手応えを感じたのだと思います。新しい場所や出会いの中で、自分の価値観もゆるやかに変わっていく――そんな転換期にいたのだと思います。
取材・文=吉田あき
とげとげ。
元ナースの漫画家・イラストレーター。埼玉県出身、葉山町在住。自身の育児漫画日記『ママまっしぐら』、創作育児漫画『夫ですが会社辞めました』『母ですが妻やめました』『「小1の壁」の向こうに』など、リアルな育児を描く。
<新連載『50歳、その先の人生がわからない』(よみタイ/集英社)スタート!>
同じ高校を卒業して30年、それぞれ異なる生き方をしてきた二人の同級生が、キャリア・家庭・老いといった人生の分岐点に立ち、それぞれの「これから」を見つめなおす物語。2025年8月24日より月1更新中。