現代社会に生きる童話のヒロインたち。ネオン街を舞台にした愛と欲と欺瞞に満ちた令和のおとぎ話が私たちに訴えることとは?【書評】

マンガ

公開日:2025/9/19

 童話の世界のプリンセスやヒロインと聞くと、あなたはどの話の登場人物を思い浮かべるだろうか。雪のように肌が白い白雪姫、ガラスの靴を履いて舞踏会へと向かったシンデレラ、凍える夜にマッチの火に希望を見出したマッチ売りの少女……。このあたりが多いだろう。そんな彼女たちに共通するのは、マッチ売りの少女の結末は多少異なるが、過酷な境遇に耐え、健気に生き抜いた先に幸せな結末が待っているという点だ。

 しかし、それはあくまで童話の話。現実の世界では、困難に耐えたからといって必ずしも報われるとは限らない。『現代を生きる童話少女』(きたしま/KADOKAWA)では、誰もがよく知る童話を題材に、現代社会を必死に生き抜く女性たちの姿が描かれている。

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 本作に登場する少女や女性たちは皆、愛や夢を求めて奔走するが、その姿は決して美しいものではない。マッチ売りの少女ならぬ、マッチングアプリで日銭を稼ぐ少女。年上のパトロンに貢がせてホストに通い詰める白雪姫。理想の結婚を夢見るも理想と現実のギャップに翻弄される港区女子のシンデレラ――。

 彼女たちを突き動かしているのは、経済面、精神面での不安や強い承認欲求、そして「誰かに選ばれたい」という切実な願いだ。夜職に売春、詐欺と、時に周囲を傷つけ貶め、重い罪を背負いながらも自分の居場所を見つけようとあがく彼女たちの姿には、今の若者たちのすぐ近くに存在する社会の暗い部分が垣間見える。

 そんな彼女たちの行いを「人の道に外れている」と批判するのは簡単だ。けれど、ただ個人の責任を問うだけでは根本的な問題の解決にはつながらない。同じような境遇に置かれ、同じような道を選ぶ若者がこれからも生まれ続けてしまうだろう。

 現代の多様な価値観と、「幸せとは何か」という問いを強烈に突きつけ、ヒロインたちがそうせざるを得なかった社会構造に決して目を背けてはならないと訴えかけてくる作品だ。

文=ネゴト / 糸野旬

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