“欲に負けた”父のようにはなりたくない! 堕天を恐れる少女と、嫉妬に目覚める少年の危うい恋の行方は――? 天使たちの織りなす罪深き学園ファンタジー【書評】
公開日:2025/9/19

天使にとって最も恐ろしいのは“堕天”。そして、その引き金になるのは恋や欲望だ。
父を堕天で失った少女・白鳥ミソラは、清らかさの象徴である「天使のわっか」を得るために、日々まじめに生きている。だが彼女が足を踏み入れたのは、七つの大罪を抱える“欲深き天使”たちが集う、生徒会だった!

少女マンガ誌『花とゆめ』で好評連載中の『恋する天使は罪深い』(酒井ゆかり/白泉社)第1巻が発売された。
生徒会役員となったミソラが出会うのは、同じ新入生でクラスメイトの鴉越カナデ。超美形でクールな佇まいから絶大な人気を集める彼は、なぜかミソラに異様なまでの関心を寄せる。鴉越くんの美しさにドキドキしつつも、彼のファンである女子生徒たちから嫉妬を買い、ミソラは居心地の悪い立場に追い込まれていくのだが……。
実はミソラには、“清らかであらねばならない”理由があった。
父親がかつて「堕天」し、天界を追放された背景があったのだ。堕天とは、強い欲望に心を支配され、天使から悪魔へと堕ちてしまうことを指す。堕天使の娘であるミソラは、周囲から白い目で見られ続け、友だちのいない淋しさを抱えていた。
いつか自分も父のように堕天してしまうかもしれない――。そうならないために、ミソラは懸命に「いい子」道をまい進してきたのだった。そんな彼女の作り笑顔の裏にある苦しみに、カナデは気がつく。なぜなら彼も美貌ゆえに周囲から特別扱いされ、ひとりぼっちだったから。


「ミソラと一番の仲良しは俺」
と豪語するカナデに戸惑いつつも、ミソラは彼と親しくなっていく。
カナデも相当強烈だが、「七罪生徒会」の他役員たちも、いずれ劣らぬ個性派ぞろいだ。七つの大罪のうち強欲、憤怒、暴食、怠惰、色欲の五つを体現するメンバーが、ミソラたちを歓迎する(注:カナデが「嫉妬」担当なので、残る1つである「傲慢」を担うのが、まだ登場していない生徒会長なのだろう)。それぞれに「欲」を抱えた彼らとミソラのやりとりや各エピソードは、群像劇的な楽しさでいっぱいだ。


だが、楽しいだけではいられない。欲望を持つ天使には堕天の危険が高まるため、この生徒会の存在自体が危うさに充ちている。とりわけカナデがミソラへ向ける感情の強さは、危険だ。現状、物語はコメディトーンで進んでいるが、いずれはシリアスモードへ突入するかもしれない。笑ってときめいて、だけどシリアスな展開を予感させる構成には、かの同誌の名作『フルーツバスケット』を彷彿とさせるものがある。
繊細な心理描写と美麗な作画が絶妙な綾を成し、キャラクター同士の掛け合いはテンポがよくてユーモラス。その一方で、堕天の恐怖や恋の切実さが、じんわりとにじんでくる。
物語が進むにつれ、ミソラの父親が堕天した理由や、その行方もきっと明かされてゆくだろう。彼女の背負う宿命が、カナデや生徒会メンバーの「罪」とどう交差していくのか……期待はふくらむばかりだ。
堕天を恐れる少女と、嫉妬に目覚める少年の危うい関係の向かう先は――? 恋と堕落が紙一重でつながっている、スリリングな学園恋愛ファンタジーだ。
文=皆川ちか
