何でも言い合える大切な幼なじみが隠していた秘密とは? 人と妖が織りなす和風ファンタジー『南条翔は其の狐の如く』【書評】
PR 公開日:2025/9/9

山の中にある荒れ果てた家で、少年は1匹の狐と邂逅する。この出会いが彼の運命を大きくねじ曲げることになるとはつゆも知らずに……。
ヒーロー文庫で刊行されている人気小説をコミカライズした『南条翔は其の狐の如く』(梅野歩:原作、六七質:キャラクター原案、ふるみや:漫画/イマジカインフォス)は、幼なじみふたりと相対する運命をたどる少年の葛藤を描いた和風ファンタジーだ。
主人公の南条翔は10歳のとき、家族と車で出かけている途中に遭った事故で両親を亡くす。深い悲しみと喪失に打ちひしがれる翔。そんな彼に手を差し伸べてくれたのが、同い年で幼なじみの和泉朔夜と楢崎飛鳥だった。

彼ら3人の特別な結びつきは、高校生になっても変わらずに続いていく。冷静沈着で面倒見のいい朔夜と、交友関係が広く誰からも親しまれやすい飛鳥。そんなふたりを家族みたいに特別な存在だと同級生に話す翔だったが、固い信頼で結ばれていた3人の関係を根底から覆す事件が起きてしまう。
同日に口裏を合わせるかのごとく頻繁に約束を破る朔夜と飛鳥を訝しんだ翔は、ふたりのあとをつけていく。そこで彼が見たのは、現実とは思えないようなおぞましい姿の化け物に臆すことなく立ち向かい、妖を祓う幼なじみたちの姿だった。

さらに、彼らの思いがけない秘密を知った同じ日、翔は脚に怪我を負った銀色の狐に遭遇する。ギンコと名付けた一匹の狐との出会いによって、彼の運命は大きくねじれていく。

物語のキーとなるのは、幼い頃に自身を支えてくれた幼なじみとの心を締めつけられるような複雑な関係だろう。「なんでも言える仲でいよう」と絆を深めていたふたりが隠していたのは、想像しえなかった大きな秘密。その事実は翔にとって、幼い頃から培ってきた朔夜と飛鳥との信頼関係をも揺るがせるものだったはずだ。
そして、何より心苦しいのは、それほどの秘密を隠していたとしても、翔が迷惑をかけたくないと思っているふたりが、彼にとって不穏な存在になることが随所で仄めかされるからだ。翔のひたむきな思いに触れるたび、要所で意味ありげに視線を交わす朔夜と飛鳥の表情に影がさすのを見て、どうしても不安や心配が先に立ってしまう。
ただ、そんな胸が苦しくなるような展開のなかでも、心をほっと落ち着かせてくれるのが人懐っこいギンコと翔の心温まるやりとり。懐かれている翔だけでなく、読者の頬さえも緩めてしまうギンコの愛らしさは、物語を通して漂う悲壮感を緩和してくれる存在だった。

ここまでのストーリー展開は逃れられない悲しみをともなう結末を予感させるものの、それ以上に気になるのが、物語にちりばめられた多くの謎。なぜ朔夜と飛鳥は結託して、翔に隠し事をしていたのか。両親が事故に遭った日、本当は何があったのか。そして、ギンコの本当の正体とは――。少年に待ち受ける過酷な運命を、ぜひ最後まで見届けてほしい。
文=ネゴト / ばやし