仕事は1日18時間。平成ホラー漫画ブームを牽引した犬木加奈子・修羅場だらけの漫画家生活をひもとく自伝的コミックエッセイ『ホラー漫画の女王ができるまで』【書評】
公開日:2025/9/21

複数の連載を同時に抱え、雑誌の表紙を数多く飾った、ホラー漫画の女王・犬木加奈子。
『ホラー漫画の女王ができるまで』(犬木加奈子/ぶんか社)は、平成のホラー漫画ブームを牽引した著者が、自らの波乱万丈な半生を描き出すコミックエッセイだ。
デビューからホラーブームの絶頂、そして、その終焉。ホラー漫画家として筆を置くまでの怒涛の日々が、時にユーモラスに、時に生々しく綴られている。
本作の魅力は、漫画家の「表の顔」と「裏の姿」とのコントラストを鮮烈に描いているところにある。「ホラー漫画の女王」という輝かしい呼び名とは裏腹に、著者の漫画家としての日々は泥臭く、苛烈だ。華々しい活躍の裏には、さなざなな修羅場があった。
同時に5誌で連載をし、常に表紙と巻頭を飾っていたため1日の執筆時間は18時間。支払われない原稿料。借金。出版社の突然の倒産。ヘビの抜け殻が入ったファンレターが届くなど、その苦労は挙げればキリがない。
本作では、そうした出来事の数々が臨場感たっぷりに、しかし、ほどよい滑稽味を交えて描かれている。
また、業界の裏側も非常に生々しくひもとかれており、漫画と漫画業界の変遷をたどる回顧録としても楽しめるだろう。気づけばページをめくる手が止まらなくなっているに違いない。
著者は、「ホラー漫画を広めたい」という一心で執念深くホラー漫画を描き続けていた。その姿からは、尋常ならざる漫画への情熱がひしひしと感じられる。
そして、漫画家に求められる才能は、絵の個性やストーリーの巧さだけに留まらないことが分かっていく。漫画家にとって真に重要な才能とは、作品への熱量の高さ。心の底から漫画を愛する執念にほかならないのである。
本作は、漫画家のドキュメンタリーであると同時に、創作者の本質を浮き彫りにする1冊でもある。平成のホラー漫画ブームを駆け抜けた著者の赤裸々な姿を、ぜひ目撃してほしい。