「お前ら何年戦うんだよ!!」勤続300年の聖剣が激務に耐えかねて、向かった先は… 働き方がホワイトすぎる“魔王軍”!?【書評】
公開日:2025/9/13

「やりがい搾取」や「ブラック企業」という言葉も世間に定着しつつある昨今。労働環境の改善は多くの企業の課題となっているが、4コマ漫画『魔王軍はホワイト企業』(スガラジカル/主婦の友社)で描かれる魔王軍の職場は、誰もが羨むほどの就業環境と福利厚生が整っている。そんな脱力系お仕事コメディの最新刊となる第2巻と第3巻が、2025年8月29日に同時発売された。

残業はなく完全週休2日制を採用、育児休業制度は充実していて、託児所も完備。さらには「フレックス制」や「有休消化」など、おおよそファンタジー作品には登場しないであろう言葉が頻出し、一般に想像される悪役イメージを覆す魔王たちのギャップが“お仕事あるある”とともにコミカルに描かれているのが本作の特徴だ。

シリーズ第1巻では部下の働きやすさを第一に考える魔王たちと、残業は当たり前でパワハラが横行する勇者一行の職場環境が、シニカルかつユーモラスに対比されている。社畜のように働く勇者パーティが愚痴を吐き出す一方で、働きやすい環境が整備されたホワイトすぎる魔王軍では、魔王を慕う個性豊かな部下たちがやりがいをもって生き生きと働く。根性論でパーティを酷使する勇者の傲岸不遜な態度を目にしているので、魔王軍の優しさと思いやりに溢れた日常には心が洗われるようだった。

そして、魔族から人間までバラエティに富んでいる物語のなかで、それぞれのキャラクターに愛着が湧いてしまうのも本作の魅力のひとつだ。仕事はできるのに休日の使い方が下手なフェザー将軍や、部下の目線を逐一、気にしてしまう人見知りなソリド将軍など、有能なのにどこか抜けているキャラクターも愛らしい。調子の出ない日だから休もうか迷いながらも出勤してしまうペレザや、成果を出そうとして無理をしてしまうドクロ男爵の行動には、ついつい共感してしまう社会人も多いのではないだろうか。

それでも、彼らが働く魔王軍には、部下の声にきちんと耳を傾ける上司たちがいる。モチベーションが上がらない日は半休を取るように促し、働きすぎている部下には無理をしないように声をかける。魔王軍が自然とこなすコミュニケーションは、まさに上司と部下の理想の関係性を映し出しているように思えた。

続巻では、勤続300年に耐えられず逃げ出してきた聖剣エクスカリバーやマッドサイエンティストの顔も持つエルフの女医・セラなど、一癖も二癖もある個性豊かなキャラクターが続々と登場する。よりいっそう賑やかになった魔王軍に対して、相変わらず休日返上で働く勇者たちのもとで起こる騒動やトラブルも見どころのひとつだ。
一方で、シリーズが進むにつれて魔王軍のもとで働く人間たちも増えており、魔族と人類の共存の道も示されている。多様性を尊重する魔王軍の働き方には、現実社会が見習うべき点も多い。ぜひ本作を読みながら、理想の職場環境に思いを馳せてみてはいかがだろうか。