『紫苑くんの仰せのまま』惚れさせたい御曹司×どうにか惚れたい元ヤン女子。うまくいきそうでいかないドタバタラブコメ【書評】
公開日:2025/10/20

犬飼ねこ氏が描く『紫苑くんの仰せのまま』(白泉社)第1巻が10月20日に発売された。
物語の舞台は、日本一の資産を誇る私立頂(いただき)学園。その学園で、生徒からの人気を集めるお嬢様の成上明日香と生徒会長の頂紫苑が婚約したことが大きなニュースとなった。

しかし、表向きは「完璧を体現」しているとまで言われる二人だが、実は主人公の明日香は、玉の輿に乗ることを目的にこの学園に入学してきた元ヤンなのだ。
明日香は中学生の頃に父親を亡くし、困窮した末に母と二人で新たな街に引っ越した。その街は物価が安い一方で、とんでもなく治安が悪かった。自分たちの身を守るためには武力を行使せざるを得なくなり、気が付けば母と娘は巷で話題の最強親子になっていた。
しかし、あるとき母親が大けがをして、莫大な医療費が発生。なんとか未成年の自分が合法で大金を手に入れるためには……と考えた結果、明日香が思いついたのは、不良少女をやめて奨学金でお金持ち学校に入り、お金持ちの息子と結婚をするということだった。

そんな明日香の強い願いがかなって御曹司と婚約……と喜ぶのもつかの間、突如婚約相手の紫苑が失踪。
そしてなぜかヤンキーになっていた(?)。

今まで頂家に尽くしてきた紫苑だったが、このまま祖父が決めた婚約相手の明日香と結婚してしまったら、一生家の言いなりになってしまう。そうなる前に、彼は「頂家から出たらやりたいことリスト」を実行することを決めたという。大好きなヤンキー漫画の主人公に憧れていた紫苑は、とうとうその主人公と同じ格好をして家を飛び出してきてしまったのだ。

お金持ちになることに人生をかけてきた明日香は、なんとか婚約を維持するために紫苑とそのリストを実現しようとする。そして、紫苑はそんな一生懸命でまっすぐな明日香と過ごしていくうちに、明日香に恋心を抱くようになる……。
あらすじだけ読めば、これで一件落着! となりそうだが、この作品はそう一筋縄ではいかない。明日香に惚れた紫苑は、今度は「頂家じゃなくて、僕自身に惚れさせてみせる」と言い出したのだ。好きになった相手に、同じように好きになってもらいたい、それは自然な感情だろう。しかし、玉の輿に乗ることしか考えていなかった明日香からしたら、予想外の展開だ。

玉の輿に乗るためには、相手に惚れなきゃいけない。しかし、その相手は毎回想像の斜め上をいくアプローチをしてきたり(慣れない壁ドンを、逆に明日香に心配される始末)、お坊ちゃまゆえの世間知らずで危なっかしい姿で明日香を慌てさせたりしてくるせいで、なかなか簡単にはロマンチックな展開にならないのが面白い。
とはいえ、だからこそ時折見せる紫苑の愛らしい姿や、頼もしい姿に、ドキドキしてしまうのも事実。明日香も紫苑の新しい一面を知りながら、少しずつ自分の気持ちが変化していることを実感する。

惚れさせたい御曹司と、なんとか惚れたい元ヤン。婚約から始まった、この二人の奇妙な恋の行方は果たしてどうなるのか、この先が気になる作品だ。
文=園田もなか
