復讐のため、女を武器に夜の世界で成り上がれ『女帝 リメイク版』【書評】
PR 公開日:2025/9/30

『女帝』(倉科遼:作、和気一作:画)をご存じだろうか。連載開始は1996年、コミックスの累計発行部数は250万部超。天涯孤独の少女が夜の世界で成り上がる物語は、2001年に実写映画化もされた。
元々は青年誌に掲載されていたが、00年代中盤になり携帯コミックとして配信が開始されると、新たに女性読者を獲得。コミック配信サービス「まんが王国」(ビーグリー)の年間ランキングでは2007年、2008年と連続して1位を獲得するなど熱狂的な支持を集めた。2007年には実写ドラマ化が実現。その後も2011年に韓国でドラマ化されるなど、時代やメディアの垣根を越えて長きに渡り愛され続ける名作だ。
その名作が、「まんが王国」が推し進める「名作リメイクプロジェクト」の一環としてフルカラー化、現代風に再構築され『女帝 リメイク版』として再誕した。

ただAIでフルカラー化、絵柄の変更を行ったわけではない。AIにより生成された原稿を、人の手によって細かく調整し、原作の持つ魅力の完全なる再現を目指しているとのことで、そのクオリティには原作者の倉科遼氏も驚きだという。
しかしなぜ、四半世紀以上前の作品がこれほど長く愛されているのだろうか。
復讐、成長、恋、そして謎――。盛り上がる要素、全部入りの物語
頭脳明晰、容姿端麗な女子高生・立花彩香は、スナックを営む母親と貧しいながらも、幸せな暮らしを送っていた。しかし初恋相手の裏切りや、最愛の母親までも蔑む男たちによって、彼女の人生は一変する。母を失った彩香は、自分たちを踏みにじった世界への復讐を誓い、夜の世界へと飛び込んでいく。
彩香を突き動かす「復讐」という目的は、読者を力強く物語へと惹き付ける。東大を狙えるような学力を持ちながら、働き詰めの母を思い進学を諦めていた彩香。持たざるがゆえに、未来の可能性までを奪われていた彩香は、経済力や権力といった生まれ持った力で思うがままを行う者たちによって、さらに深い悲しみへと突き落とされ、復讐を決意する。そんな「持たざる者の怒り」が『女帝』の底には流れている。
金も権力もない彩香が飛び込んだ夜の世界は、けっして甘い世界ではない。むき出しの欲望をぶつけてくる客や、同業のホステスたちからの嫉妬、権力者からの無理難題など次々と試練が訪れる。そうした問題をひとつずつ乗り越え、女帝へと近づいていく。

もちろん夜の世界には色恋がつきもの。魅力的な彩香に惹かれ、様々な男性が現れる。復讐に燃える彩香だが、物語開始時点ではまだ18歳の少女。年相応の弱さも持っている。彼らと彩香の恋の行方も『女帝』の魅力のひとつだ。

復讐をメインに、彩香の成長、恋と幾重にも織り重なった物語が、ものすごいスピード感で描かれる。もともとが次話への引きが重要視される週刊誌での連載だったこともあってか、一度読み出すと続きが気になり、ついもう1話、あともう1話と読む手が止まらなくなってしまう。そんな物語をさらに深いものにしているのが「彩香の父親とは?」という謎だ。
母の今際の際、「父は生きている」と告げられた彩香。自分と母を捨てた父も彩香にとっては復讐の対象のひとりとなる。当初、それが誰なのかは伏せられており、『リメイク版』でも今後明らかになることだろう。
復讐、成長、恋、謎。これらの要素は、現在の多くのヒット作にも共通する、作品を盛り上げる要素だ。それらが複雑に絡み合う『女帝』が名作であることは間違いない。しかし次々と新しい作品が生まれる今、どんな名作も新作に埋もれてしまいがちだ。『リメイク版』の登場を機に、『女帝』という作品に触れてみてはいかがだろうか。
文=ダ・ヴィンチWeb編集部