『フルーツバスケット』作者の新作が登場。広くて窮屈な世界で紡がれるお隣さんラブストーリー『かくも小さき世界にて』

マンガ

公開日:2025/10/20

かくも小さき世界にて 上巻
かくも小さき世界にて 上巻(高屋奈月/白泉社)

 全世界コミックス発行累計3000万部を突破する名作『フルーツバスケット』の作者・高屋奈月。同氏が手掛けた最新作『かくも小さき世界にて』のコミックス上・下巻が、10月20日にリリースされる。

 同作は、2023年9月から白泉社の総合エンタメアプリ「マンガPark」で連載されていたお隣さんラブストーリーで2025年7月に完結を迎えた。

 物語は、主人公・小野寺スイの自宅アパートに隣人の瀬戸郁が訪ねてくるところから始まる。スイは仕事を辞めて実家を飛び出し、一人暮らしを始めたばかり。将来に不安を抱えつつも、1年以内に生活を安定させると自分に誓い、新たな就職先を探す日々を送っていた。

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 そんなある日、手を血まみれにした郁がいきなりスイの家に乗り込んでくる。なんでも、飼い犬のティノがスイの家のベランダに入り込んでしまったのだという。この突然の出来事をきっかけに、二人の交流が少しずつ始まっていく。

 スイは一見すると明るい性格の持ち主だが、心の奥には深いトラウマを抱えている。周囲の期待に応えようと勉学や仕事に励むものの、思うような結果が出せず、限界を迎えてしまった過去があった。

 そこで生きる場所を変え、もう一度やり直そうと実家を出たのだが、ふとした瞬間に“罪悪感”が押し寄せてくる。家族の期待に応えられなかったばかりか、迷惑までかけてしまったことを申し訳なく思うと同時に、どこかで許しを願っていたのだ。

 これまではそんな思いを抱えながら、ひとりで耐えるばかりだったスイ。だが郁と出会ってからは、何気ない言葉に心が救われることが増え、さらに郁をきっかけに新たな交流も生まれる。閉ざされていた小さな世界に、少しずつ光が灯り始めるのだった。

かくも小さき世界にて 下巻
かくも小さき世界にて 下巻(高屋奈月/白泉社)

 一方で、郁もまた決して単純な人物ではない。人当たりの良さそうな雰囲気の裏には、どこか人を寄せ付けない冷ややかさが潜み、作中の節々には不穏な描写も散りばめられている。

 作者の高屋奈月といえば『フルーツバスケット』で知られるように、ただのラブストーリーにとどまらず、登場人物それぞれの傷や葛藤、人間関係の複雑さを丁寧に描き出す作風が持ち味だ。本作でもスイと郁の関わりを軸に、彼らの内面に迫る人間ドラマが大きな魅力となっている。

 乾いた心にそっと沁みわたる“高屋奈月ワールド”を、上・下巻という手に取りやすいボリュームで味わえる『かくも小さき世界にて』。広くて窮屈な世界の中で紡がれる、スイと郁の人間模様に触れてみてはいかがだろうか。

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