男性目線で描かれた不妊治療の記録。度重なる人工授精、流産を経験した夫婦が10年間の不妊治療の末に選んだ道【書評】

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公開日:2025/9/30

 不妊治療の一部保険適用など、少しずつ不妊治療がしやすい環境が整ってきている。しかし治療には経済的・肉体的・精神的に大きな負担が伴うことが多い。

 治療が長期化すると、このまま続けるか、それとも区切りをつけるか、選択に迷う夫婦は少なくないと聞く。そんなとき、不妊治療を続けた夫婦の実話『不妊治療、やめました。〜ふたり暮らしを決めた日〜』(堀田あきお&かよ/ぶんか社)は、ひとつの指針となるかもしれない。

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 本作は、著者夫婦の10年に及ぶ不妊治療の記録が描かれたコミックエッセイだ。妻の子宮内膜症手術により、目前に迫っていた結婚式をキャンセルすることになったふたり。妊娠によって子宮内膜症の症状が改善した、という症例を知り、子作りを決意する。しかし思うようには進まない。

 人工授精や流産という試練を乗り越えてきたが、最終的に選んだのはふたりで生きていく道だった。

 注目すべきは、本作が男性目線で描かれた不妊治療記である点だ。夫婦共同での作品であるものの、夫であるあきおの主観で語られるシーンも多い。

 あきお側に不妊の原因があるかもしれないと医師に言われ、「否定されたような気になり落ち込んだ」というエピソードが率直に描かれていたり、妻に負担をかけないように、涙を見せずに踏ん張ろうとする場面もある。

 夫婦の片側からではなく「両方の視点」で不妊治療をとらえている本作は、女性にとってはパートナーの心情を知る手がかりに、男性にとっては「自分も同じだ」と感じられる共感の糸口になるかもしれない。

漢方から最先端医療まで、さまざまな手法を試すふたりだが、不妊治療中に出会う医師の中には、寄り添ってくれる人もいれば努力を台無しにするほど冷たい医師もいる。痛みや孤独を伴う治療の道のりを支えたのは、常にお互いの存在だった。

 本音を言い合い、弱さも見せながら二人三脚で歩んだ記録は、夫婦の絆について考えるきっかけを与えてくれるだろう。

 本作は不妊治療に向き合う女性はもちろん、男性にもぜひ手に取ってほしい1冊だ。夫婦としてどのように不妊治療に立ち向かうのか。どのように寄り添えばよいのか。本作はその問いに答えるヒントを、リアルな記録として示してくれる。

文=ネゴト / くるみ

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