溺愛するお人形にそっくりな後輩。彼女を見ているだけで心が躍り…自分の「好き」を大切にしたくなる大人の友情ストーリー『君にかわいいと叫びたい』【書評】
公開日:2025/10/18

『君にかわいいと叫びたい』(ハッピーゼリーポンチ/KADOKAWA)は、女性同士の友情を熱量高く切り取った物語だ。読めば自己肯定感が上がること間違いなしの、ポジティブな一作である。
主人公は会社員の桐山さん。人から話しかけられると緊張で表情がこわばり、職場でスムーズな人間関係を築けない。そんな彼女には、着せ替え人形「てぃあらちゃん」を溺愛するという密かな趣味があった。
ある日やってきた新入社員の南さんは、驚くべきことにてぃあらちゃんと瓜二つ! 桐山さんは衝撃を隠せない。
やがてひょんなことから、南さんへてぃあらちゃんを紹介することになり…。桐山さんのドール趣味を好意的に受け止め、てぃあらちゃんのことをテンション高く可愛がる南さんに、桐山さんは感激の涙を流すのだった。
なにかに熱中する趣味がある人は、桐山さんがてぃあらちゃんへ夢中になる気持ちに強く共感できるはずだ。てぃあらちゃんは、桐山さんの単調な日常に唯一彩りをくれる存在であり、まさに生きがい。桐山さんは大好きな人形の服作りを否定された過去を持っており、彼女の存在は好きなものを否定された人の心にも寄り添ってくれる。
一方で南さんも、自分の「好き」を封じ込めていた過去がある。柔道一家で育ち、柔道三昧な生活に身を置いていたため、したいおしゃれもできない毎日。南さんは親元を離れてからやっと自分の「可愛い」を身に纏えるようになった。
少しずつ「自分の好き」を重ねてきたからこそ「やっと本当の自分になれた」と語る彼女は、桐山さんが本気で愛するてぃあらちゃんのこともドール趣味もまるごと肯定する。
南さんの存在が桐山さんの心を溶かし、読者にも「好きなものを好きでいいんだよ」と語りかけるのだ。
趣味を打ち明けたことで、ふたりの距離は一気に縮まっていく。どこまでも一直線で時に天然さをのぞかせる南さんと、そんな彼女に「可愛い!」と全力で叫ぶ桐山さん。いつでもまっすぐなふたりのやりとりはユーモラスで微笑ましく、読んでいて頬が緩む。
2巻では猪突猛進なふたりの姿がさらにパワーアップ。南さんのかつての柔道仲間も登場し、物語はますます賑やかになる。
ふたりの友情は、読者に勇気と優しさを届けてくれるだろう。
文=ネゴト / fumi