推し活が原因で失恋。親友からの正論に打ちひしがれていたら「シェアハウスの運営」を持ちかけられて…。支え合う姿が心に沁みるシスターフッド・ストーリー【書評】
公開日:2025/10/8

推し活に夢中になりすぎて、大切な恋を失う。どこか有り得そうな経験から始まる『むぎのはな~shared life is beautiful~』(市川なつを/KADOKAWA)。本作は、失意の中にいる女性が友情を通して再生していく姿を描く。
30歳の山本麦は、恋人との記念日に推しのソロコンを優先した結果、彼に別れを告げられてしまう。4年間交際し結婚も視野に入れていただけに、その喪失感は大きい。
そんな麦に対して、高校時代からの親友・ともよが声をかける。
「結婚したいって思ってる相手なら ちゃんと人として向き合わなきゃでしょ」
「相手のことを優先しなくても自分は許されるって思ってたの?」
「ムギ あんた自分勝手すぎるよ」
なんとも耳が痛い問いかけではあるが、慰めるだけでなく麦自身の幸せを思っての言葉に深い友情を感じ、胸がじんとする。
悲観的になっていた麦に、ともよは「女の子のためのシェアハウスを一緒に運営しよう」と提案する。突然の誘いに戸惑いながらもともよの思いに動かされ、麦は引っ越しを決意。ふたりが手を取り、新しい一歩を踏み出す姿がなんとも美しい。
もちろん、シェアハウスの立ち上げは簡単ではない。口先だけの約束やドタキャンに振り回されたり、気づけば結婚していた友人の存在に焦ったり。読者も日常生活で経験するような等身大の葛藤や悩みの中で、ふたりは仲間を集めていく。
麦のオタク友達や、ともよのSNSのフォロワーが加わり、個性豊かなメンバーとの共同生活の始まりにはワクワクさせられるだろう。
距離感や共同生活のイロハに戸惑いつつも、彼女たちは次第に心を近づけていく。好きなことを大切にしながら、自分自身のことも同じぐらい大切に暮らす彼女たちの生活はとても楽しそうだ。
寄り添いながら自分たちの足で進む彼女たちの姿に、元気をもらえるだろう。賑やかで温かいその生活を、あなたも覗き見してみてはいかがだろうか。
文=ネゴト / fumi