夫からの家庭内モラハラ。妻の唯一の気晴らしは、恨みつらみをSNSに投稿すること。そんなある日、夫が事故に遭い…『夫の死を願ったらダメですか?』【書評】
公開日:2025/10/9

『夫の死を願ったらダメですか?』(まきりえこ:著、草餅よもぎ:原案/KADOKAWA)は、妻が夫に抱く不満や怒りをテーマとした物語だ。作中では、家庭生活に悩みを抱く妻たちの感情が詳細に描かれている。
有名企業に勤めるエリートサラリーマンと結婚し、幸せな新婚生活を送っていた主人公。何不自由ない穏やかな毎日は、誰もが羨むようなものだった。
しかし、家族計画について夫や義母と話し合いを始めた頃から、しだいに雲行きが変わり始める。妊娠が発覚し、夫へ双子の女の子を授かったことを伝えると、なぜか「二人とも女なの?」と顔を曇らせる。義母も「男の子はいいわよ!」「子どもは早く産んだほうがいいからねえ」と、まだ見ぬ3人目の男児への期待を執拗に口にする。
ワンオペで育児に励む主人公にとって、ふたりの言葉はあまりにもつらく重いものだった。さらに、追い打ちをかけるように夫の不倫が発覚。絶望した主人公は、夫への不満や怒りを匿名で発散する投稿をSNSで偶然見かけ、深い共感を覚える。
それ以来、「#夫デスブック」というハッシュタグを付けて夫へのストレスを投稿することで、似た境遇の女性たちと交流を図るのが彼女の日課となっていた。そんなある日、夫が事故に遭ったとの知らせが届き――。
本作では、ワンオペ育児や家庭内におけるモラハラ、家庭に入った女性が陥りやすい孤独やストレスといった社会問題の数々が、女性の視点から丹念に描かれている。家庭内の問題は当人同士にしかわからないとよく言われるが、むしろ第三者がいない閉鎖的な環境では自分を責める思考が強くなりがちで、冷静な判断を下せなくなる側面もあるはずだ。人はそんなときほど、偏った考え方や歪んだ意見に感化されやすくなる。
インターネット上に溢れる匿名の意見同様、徐々に夫への敵対心を強めていく主人公。はたして彼女はどこへ向かうのか。
夫の死を本気で願った妻の結末を、ぜひその目で確かめてほしい。