本が好きすぎる侯爵令嬢に王太子の愛情は伝わるか? 勘違いから生まれた誤解でやきもきしてしまう、じれったくて優しいラブファンタジー【書評】
公開日:2025/10/11

『虫かぶり姫』(由唯:原作、喜久田ゆい:コミック、椎名咲月:キャラクター原案/一迅社)は、侯爵令嬢を主人公とするラブファンタジー作品。本の世界を愛する内向的な令嬢が「好き」に正直な姿やそれを見守る周りの人々が描かれる。
三度の食事より本を愛する筋金入りの読書家・エリアーナは、王太子・クリストファーから婚約を申し込まれた時も、まず本が読める環境が手に入る喜びを感じたほどだ。彼女はその婚約を形式的なものだと捉え、いつか終わりが来ると割り切っていた。それでも優しい王太子や誠実な側近たちと過ごす中で少しずつ居心地の良さを覚え始める。ところが、王太子と令嬢・アイリーンの仲睦まじい様子を偶然目にしてしまい、ついに婚約解消の時が訪れたと誤解してしまう。
エリアーナは人付き合いが苦手だが、ただ内にこもっているだけではない。本で得た知識を活かし、気づかぬうちに誰かを助けたり、信頼を築いたりしていく。純粋な好奇心が生み出す言葉や行動、そしてそのひたむきさは愛らしくも力強い。また、彼女が大好きな本に触れている時の表情はとても柔らかく、本がなによりも好きな気持ちが伝わってくる。
一方のクリストファー王太子は、そんなエリアーナを深く理解し、彼女の「好き」を尊重している。婚約を持ちかけた当初から、まず読書の自由を守ることを約束。王宮の書庫を自由に使えるようにしたり、希少な本を取り寄せてプレゼントしたりして、エリアーナへの好意を表現する。相手を縛るのではなく、相手の好きなものを大切にする姿勢には深い愛情がにじむ。
しかし、ふたりの距離はもどかしくて思わずやきもきしてしまう。王太子は自分の気持ちを真っ直ぐ言葉にできず、エリアーナはあまりにも鈍感でその思いに気がつかない。そこにアイリーンの存在が絡むことで誤解が重なり、王宮の空気までも揺れ動いていく。ふたりの関係はどうなるのか。心が通じ合う瞬間を楽しみにしながらページをめくる、甘くロマンチックな時間を満喫してほしい。
文=ネゴト / fumi