田舎暮らしはのんびりできるのか?埼玉から京都の舞鶴へ移住した母ちゃんの実録田舎ライフ【書評】
公開日:2025/10/20

田舎での生活は、一見のんびりとした魅力があるように思われる。しかし、いざ慣れない土地で暮らしてみると、生活の不便さや地域特有の人間関係など、思いもかけない苦労に直面することも少なくない。『まりげ母ちゃんの全力日本海ライフ』(まりげ/オーバーラップ)は、そんな田舎暮らしの現実をありのままに描いたコミックエッセイである。
埼玉出身の著者は、京都の舞鶴出身の夫と結婚し、はじめは自身の実家で新婚生活を送っていた。しかしある日、夫から「故郷に帰って家業の漁師を継ごうと思ってる」と告げられ、思いがけず舞鶴へ移住することに。ところが当初予定していた家には住めず、まずは義実家との同居生活が幕を開ける。便利な都会暮らしを手放し、自然の中で4人の子どもたちを育てる激動の日々が始まるが、慣れない土地で義家族と過ごす生活は決して平坦ではなかった。
本書の見どころは、田舎での生活にともなう魅力や大変さが、移住者の視点から詳細に描かれている点だ。例えば、一口に田舎といっても、居住エリアによって住み心地はそれぞれ異なる。都心に近い「まちなかエリア」と、海や山に囲まれた「農漁村エリア」の両方で暮らした経験を持つ著者の体験談は非常に興味深い。まちなかエリアでは、スーパーや公共施設の少なさや交通の不便さなど、不足しているものばかりに意識が向いてしまった。しかし農漁村エリアに移ると、日々の生活は決して楽ではないものの、雄大な自然に囲まれ、季節の移ろいや海の恵みを身近に感じられる豊かさがあった。
このような生活者ならではの喜びや困難は、表面的な情報からはなかなか見えてこないものだ。随所で描かれる生活の工夫や日々の小さな発見は、読者に新しい視点と共感を与えてくれる。移住経験者だからこそ語れる、田舎暮らしの本当の楽しさが、ここに詰まっている。自然との共生や地域との関わりに興味がある人は、手に取ってみてはいかがだろうか。