他人の目を気にしていることに疲れたあなたへ。いい人卒業への道【書評】

マンガ

公開日:2025/10/21

 頼まれごとを反射的に引き受けてしまったり、無理をして期待に応えようとしてしまったり、本当は傷ついているのに笑って流してしまったり……。ひとつひとつは小さなことでも、積み重なると「しんどさ」はどんどん重くなっていく。『「いい人でいなきゃ」を卒業したら人生がラクになりました』(そうはは。/オーバーラップ)は、つい「いい人」でいようとして自分の気持ちに蓋をしてしまう人のためのコミックエッセイだ。

 機能不全家族で育ち、常に他人の顔色を気にして生きてきた著者。「いい人でいなきゃ」という思い込みは、職場でも私生活でも行動の基準になっていた。しかし、自分を下に見るような言葉を投げかける友人との関係に悩んだことをきっかけに、自分の気持ちを優先することの必要性に気づく。自分の本音を代弁してくれるイマジナリーフレンドに背中を押され、少しずつ「いい人でいること」への義務感を払拭していく著者の姿を、温かく描いた1冊だ。

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 本作の最大の魅力は、ユーモラスなストーリーで著者の変化を鮮やかに描いている点だ。同時に、「『いい人でいなきゃ』を卒業する」と決めても、罪悪感で心が揺れたり悩んだりする著者の心情もリアルに描かれており、共感しながら読み進められる。その中で、「断ることを怖がらない」「辛さを人と比べない」など、生活の中で少しずつ実践できるヒントが紹介されていく。読者の心を軽くする工夫が随所に鏤められた、優しい構成が印象的だ。

 自分の心に素直になって、自分を大切にするためにはどうすればいいのか。本作はそれを丁寧に教えてくれる。あなたの心のお守りになる言葉が、きっと見つかるはずだ。周りの人に優しくしようと心を配ることは素晴らしいが、そこに意識が向きすぎるがゆえに自分の心身をすり減らしてはいないだろうか。これまで周りに配ってきた思いやりを、そろそろ自分自身にも向けてみてもいいのではないか。本作を読んで、ぜひ一度自分に問いかけてみてほしい。

文=ネゴト / 桜小路いをり

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