危機管理能力MAXのサラリーマンの家に突如熊がやってきた!? 見た目は猛獣、中身は几帳面な熊とのシュールで愉快な同居生活【書評】
公開日:2025/10/25

『くまぐらし』(野田宏:原作、若松卓宏:作画/KADOKAWA)は、リアルすぎる熊との、ちょっぴり危険でハートフルな同居生活を描いたコメディ漫画だ。
主人公は、子どもの頃から徹底的にリスクを回避して生きてきたサラリーマン・熊田。座右の銘は「備えあれば憂いなし」「転ばぬ先の杖」「君子危うきに近寄らず」。鉄壁のマニュアルを作り上げ、常人ならざるリスク管理能力を身に付けている。だが、そんな男でも回避できない、自宅への巨大な熊の出現という大事件が突然発生する。どうやら危害は加えてこない様子の熊と、命の危険と隣り合わせの同居生活が始まる。
熊の絵柄は、可愛らしくデフォルメされておらず、とにかくリアルで迫力満点だ。読者も熊田と同じように「次の瞬間襲われるかもしれない」という恐怖を体感できる。だがその外見とは裏腹に、熊の行動は驚くほど几帳面で丁寧。洗濯物を畳み、朝食を用意し、スーツを整えて差し出すなど、人間顔負けの気遣いを見せる。恐怖と笑いが絶妙に入り混じるギャップこそが、この作品の大きな魅力だ。
物語が進むにつれ、熊田にも変化が訪れる。熊を追い出す方法を模索し、コンビニ店員のナターシャや部下たちに相談しているうちに、他者との関わりを少しずつ受け入れるようになる。会社の人たちと飲むなど、以前の熊田からは考えられない行動もみられる。合理主義で人との距離を置いてきた熊田が、不本意ながらも人間的に成長していく姿は、コミカルでありながら温かみがある。
話が進むごとに、熊の世話焼きぶりはますます強くなる。酔っ払いを甲斐甲斐しく介抱したり、シャツについたシミを器用にもみ洗いしたりと、気づけば家にいてくれて助かる存在になっているのが面白い。さらに2巻からは、スリルを求め危険に突っ込むことを厭わないアドレナリン中毒の部下が登場。熊に強い興味を抱き、熊田と熊との生活に深く関わってくることで、日常はより一層騒がしく、そしてシュールに彩られていく。常識を超えた同居生活から、今後もますます目が離せない!
文=ネゴト / fumi
